AI時代、事業が変われば組織も変わる。新規事業創出に伴う人材再配置やスキルベース組織への転換、全社でのAI活用の浸透など、DX推進を成功に導くために、組織・人材戦略や仕組みづくりがますます重要になる。DX推進や組織変革を支援してきたGrowNexusの小出翔氏が、変革を加速させるカギを探る。
「定時になったので失礼します」「その業務は私の担当範囲外です」――。
あなたの職場で、与えられた仕事はきっちりこなすものの、頼まれていない業務改善や後輩の面倒、部署をまたぐ雑務などには一切手を出さない社員はいませんか?
「最近の若手は意欲が低い」「指示されたことしかやらないサボりでは」という声もあるでしょう。しかし、当事者の社員からすれば「契約通りの仕事は100%果たしている。なぜ職務記述書にないことまで求められるのか」という、真っ当な主張でもあります。
昨今、HR領域や経営における重要なテーマとして「静かな退職」(Quiet Quitting)が注目を集めています。現場のマネジャーや経営層の中には、これを単なる「怠業」として片付けようとしたりする傾向もあります。
しかし、その実態をひも解けば、これは一時的な流行や世代論で片付く問題ではありません。特に日本企業においては、長年続いてきた「メンバーシップ型雇用」の根幹を揺るがす、構造的な課題を内包しています。労働人口が減少し、人材獲得競争が激化する中で、従業員がいかにして熱意を失っていくのかを正確に把握することは、企業の存続を左右する重要な課題と言えます。
「言われたことしかやらない社員」を単なる“怠慢”と決めつけて無理に発破をかけると、かえって組織の硬直化や優秀な人材の離職を引き起こしかねません。本稿では、日本企業の構造的な課題をひも解きながら、会社として「尊重すべき健全な線引き」と「直ちに介入すべき危険信号」を解説します。
「静かな退職」という日本語のネーミングは、言葉の響きから「静かに離職の準備を進めている状態」や「働く意欲を完全に失い、業務を放棄している状態」といった誤解を生みがちですが、実際は異なります。
実態は、会社に在籍し、契約上・職務上求められる最低限の仕事はこなすものの、それ以上の自発的な改善提案や自己犠牲を伴う対応はせず、組織のために自発的に努力することを控える状態を指します。
マイナビが運営する調査・研究メディア「キャリアリサーチLab」の調査レポートにおいても、静かな退職は「やりがいやキャリアアップは求めずに、決められた仕事を淡々とこなすこと」と定義されています。同レポートによれば、日本の正社員の46.7%がこの状態に該当すると回答しており、20代に至っては50.5%と半数を超えています。
これはもはや一部の「意欲の低い社員」の問題ではなく、働き方や仕事に対する価値観そのものが変化している可能性を示しています。
したがって、経営者や人事担当者が直面している問題は「働いていない人が増えた」という単純な能力や怠慢の話ではありません。むしろ問題の核心は、これまで日本企業が暗黙のうちに依存し、タダ乗りしてきた「余白の努力」が喪失しつつあるという点にあります。
日本企業では長年、明文化されていない以下のような「見えない貢献」によって、組織が円滑に運営されてきました。
静かな退職とは、こうした職務記述書には書かれていないプラスアルファの行動に対し、従業員側から「それは本当に自分の仕事(責任範囲)なのか?」「これだけの自己犠牲を払って、会社は正当に報いてくれるのか?」という問いが突きつけられている現象と言えます。
現場のマネジメントにおいて最も危険なのは、静かな退職を「怠業」(サボり)や「低成果」と混同し、不適切な指導や評価を下してしまうことです。この事象を正確に捉えるために、従業員の働き方を「職務内成果を出しているか」(タスク・パフォーマンス)と「職務外・裁量的な貢献をしているか」(コンテキスト・パフォーマンス)の2軸で整理し、以下の4つの状態に分類します。
ここで重要なのは「頑張らないこと」(=明文化された以上の過剰な追加貢献をしないこと)を即座に悪と見なさないことです。会社が見極めるべきは、その行動が「心身を守るための健全な境界設定」なのか「周囲に害を及ぼす解釈のズレ」なのかという境界線です。
不満はある、でもサボれない――「静かな退職」と「手を抜けない人」 働く意識の二極化
社員はこうして“あきらめる” 「静かな退職」に潜む2つの顔
「給料分しか働きたくない」と言う、“静かな退職者”の大きな誤解Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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