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預金3000万円でプラチナカード無料 三菱UFJ「50兆円の富裕層囲い込み」に透ける焦り(1/2 ページ)

» 2026年08月31日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 預金3000万円以上で、アメックスブランドのプラチナカードが本人・家族とも永年無料──。

 メガバンク最大手の三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が打ち出したのは、年会費数万円から10万円超が相場のプラチナカードの常識を外れた特典だった。対象となるのは、個人顧客のわずか2%(約75万人)。しかし、この一握りの超・重要顧客こそが、三菱UFJ銀行の個人預かり残高の実に半分、50兆円を握っている。

 「金利のある世界」が到来し、預金が再び利ざやを生む原資へと化けた今、なぜプラチナカードをタダで差し出せるのか。一見すると新規顧客を奪いに行く派手な「攻めの富裕層戦略」に映るが、その実態は真逆だ。

 世代交代とともに始まったネット銀行への相続マネー流出を食い止めるため、業界首位が仕掛けた「防衛策」の裏側に迫る。

photo1 左から三菱UFJニコス社長の角田典彦氏、MUFG執行役専務の山本忠司氏、MUFG常務執行役員の旦一哉氏(以下写真は筆者撮影)

預金3000万円で「プラチナ無料」 最大1.6%還元のワケ

 MUFGは8月26日、富裕層向け会員組織「エムット Excellent Club」と、デジタル相続プラットフォーム「エムットそうぞく」を発表した。会員組織は2027年3月、相続プラットフォームは2026年度下期に始める。

photo1 「エムットそうぞく」の全体像(発表会資料より)

 会員組織の対象は、三菱UFJ銀行に「預かり金融資産3000万円以上」または「資産運用残高1000万円以上」を持つ個人だ。条件を満たした顧客を銀行側から順次招待するオプトアウト方式(断らない限り会員になる方式)を基本とし、入会金・年会費は無料。該当者は約75万人で、個人顧客全体の2%にすぎない。ただし、この2%が個人の預かり残高の約半分、50兆円を持っている。

photo1 エムット Excellent Clubの本人会員は約75万人で、顧客全体の2%にすぎない。だが、この75万人が保有する預かり残高は50兆円と、同行の個人預かり残高約100兆円の半分を占める(MUFG発表会資料より)

 目玉は会員限定のクレジットカードだ。三菱UFJ銀行と三菱UFJニコスが共同開発した「エムット Excellent Club カード プラチナ」は、アメリカン・エキスプレスブランドのプラチナカードでありながら、本人・家族とも入会金・年会費が永年無料。還元率はカードの利用額ではなく三菱UFJ銀行への預かり残高で決まり、入会ラインの3000万円で1.0%、最大1.6%まで上がる。対象は預金種別を問わず、投資信託などの運用残高も含む。この仕組みで特許を出願している。

photo1 カードのポイント還元率は三菱UFJ銀行への預かり残高に連動し、3000万円で1.0%、最大1.6%まで上がる。預金種別を問わず、運用残高も判定に含む(MUFG発表会資料より)

 カード以外には、銀行・信託・証券の専門家と、外部の税理士法人にオンラインで相談できる「エムット Excellent Brains」や、円定期や外貨定期の金利優遇、住宅ローンなどの金利優遇、窓口の優先予約枠が並ぶ。入会資格は現在の「三菱UFJ銀行 エクセレント倶楽部」と同一で、変えたのは特典の中身と、申込制から招待への入り口だ。

 MUFG執行役専務の山本忠司氏(リテール・デジタル事業本部長兼グループCDTO)は「金利のある世界となり、各行で預金金利の引き上げ競争が激化している」と外部環境を説明した上で、新しい局面を「預金金利プラスアルファの付加価値の競争」と定義した。3メガバンクの普通預金金利が横並びの中、金利ではなく特典で預金を囲い込むという宣言である。

photo1 エムットの今後の展望(発表会資料より)

なぜ「数万円の年会費」をタダにできる? 預金が利ざやを生む時代の計算

 「一般にプラチナカードは年会費が数万円から10万円を超える。無料になるケースもあるが、いろいろな利用条件をクリアしなければいけない」。そう話すのは三菱UFJニコス社長の角田典彦氏だ。

 エムット Excellent Club カードに条件はない。会員であること、それだけだ。年会費を取らないカードはどこで採算を取るのか。記者の問いに角田氏は「カード事業単体での採算ではなく、エムット Excellent Club全体、MUFG全体で事業採算が取れる仕組み」と答えた。山本氏も、事業本部はLTV(顧客一人から生涯に得られる収益)で顧客収益を測っているとし「カードを起点に預金口座が取れて投資をしていただく、この大きなLTVの中で考えている」と補足した。

 なぜグループ全体なら採算が合うのか。金利が戻ったからだ。MUFGの2025年度決算では、円金利上昇の影響だけで営業純益が約1500億円増えた。2026年度はさらに1700億円の押し上げを見込む。山本氏が率いるリテール・デジタル事業本部の預金残高は83兆円。金利がなかった時代、預金を集めても貸出や運用で利ざやを稼ぎにくかった。金利が戻れば、同じ預金が低コストの調達原資となり、貸出や運用から得る収益を支える。

 山本氏は「圧倒的なストックを維持拡大していくことが、MUFGの勝ち筋になる」と言う。ストックとは、収益の土台に戻った預金のことだ。3000万円を預ける顧客に年会費相当を還元しても、その預金を原資に稼ぐ利ざやと、他行やネット銀行に持ち出されない価値のほうが大きい。カードは決済商品ではなく、預金の維持費として設計されているというわけだ。

 残高に応じた優遇自体は他行にもある。三井住友銀行のOliveも、銀行預金とSBI証券の残高を合算した「Olive残高」でカードの年会費を無料にしたりアドバイザー相談などの特典を判定したりする。MUFGが「本邦初」とするのは、カードの還元率そのものを残高で動かす点だ。優遇を、誰にでも見える形で預金額に比例させたことになる。

 会場にはカードの実物が展示されていた。至極色(しごくいろ)と呼ぶ濃い紫を基調にした縦型で、角田氏は「冠位十二階で最上位とされた色」と説明した。特典は還元率だけではない。特定のスーパーやコンビニで最大20%のポイント還元、クレカ積立で最大7%還元に加え、アメックスと提携した高級ホテルのアーリーチェックインや朝食サービス、空港送迎、レンタカーの車種アップグレードなども付く。ただ、残高ごとの還元率の刻みなど詳細は発表会では示されず、2027年度上期の発行までに明らかになる。

photo2 会員限定で発行予定の「エムット Excellent Club カード プラチナ」。至極色を基調とした縦型デザインで、本人・家族とも入会金・年会費は無料とした
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