ダイヤモンドスピン方式は、量子ビットを束ねた「量子モジュール」同士を光配線で接続することで、量子状態を転送できる特徴がある。富士通は、この特徴を応用し、複数機の超伝導方式量子コンピュータをつなぐことで、課題だった大規模化を実現しようとしている。
「超伝導方式でもうじき1000量子ビットが実現する予定だ。さらに、1万量子ビットを超える量子コンピュータを作ると発表している。問題は、どこまでできるかだ。冷凍機を無限に大きくできればいいが、限界がある。どこかで冷凍機同士をつながなくてはならない。(従来の接続方法では、接続する装置も冷やさなければならないが)室温でも安定している光に変換することで、量子状態を遠くまで伝達できる」(佐藤氏)
例えば、2台の超伝導方式量子コンピュータの間にダイヤモンドスピン方式を設置して「配線技術」として使うイメージだ。
光で接続する場合、量子モジュールの「発光効率」が高いほど、計算処理を高速化できるという。富士通は、人工ダイヤモンド結晶のキズにスズ(元素記号:Sn)を入れた「スズ-空孔セクター」(SnVセクター)という構造で量子ビットを作ることで、発光効率を従来の約10倍に高めた。
今回公開した試作機は、スズ-空孔セクターで作った量子ビットを制御するシステムで、ここまで実現できたのは世界初だという。
スズ-空孔セクターを用いたダイヤモンドスピン方式量子コンピュータは、現時点ではまだ「数量子ビット」に過ぎない。佐藤氏は、今後ビット数を増やして「2027年を目標に、複数の量子モジュールから成るダイヤモンドスピン方式量子コンピュータの開発に取り組む」として、新たな技術に挑む面白さを次のように語った。
「いま普及しているコンピュータは、真空管を使ったものから始まり、半導体を使ったものに行き着いている。(現在の量子コンピュータ研究は)『最初のコンピュータをどう作るか』を模索している時期と似ていると思う。最終形が見えない中、さまざまな技術開発に取り組んでいる。新しい技術を作るという点で、非常に面白い」(佐藤氏)
佐藤氏は、ダイヤモンドスピン方式量子コンピュータ開発への投資額は非公開として「投資対効果があることを考えて取り組む」と説明した。同氏は「量子コンピュータだけの話ではない」として、富士通が手掛ける「CPU」「AI」「スーパーコンピュータ」(HPC:High Performance Computing)なども組み合わせて「ハードウェアを単独で売るのではなく、サービスとして展開する」と述べた。
「量子コンピュータが不得意な計算領域もあるため、HPCの活用は必須だ。また、AIとの融合が重要だと考えている。AIを活用し、計算資源を適切に組み合わせたり配分したりしてお客さまの課題を解くようなプラットフォームを提供したい」(佐藤氏)
すでに、量子コンピュータの計算能力やシミュレーターをクラウド経由で利用できるサービス「Fujitsu Hybrid Quantum Computing Platform」を提供している。同サービス上で、ダイヤモンドスピン方式量子コンピュータも制御できることを確認したといい、今後同サービスに組み込む可能性がある。
富士通は、5月28日に発表した「中長期経営ビジョン2035」で、自社CPUやHPC、量子コンピュータによって信頼できる計算基盤「ソブリンプラットフォーム」を提供し、2035年度に1.5兆円の売り上げを創出する方針を掲げている。ダイヤモンドスピン方式量子コンピュータ開発における一歩が、同社の事業推進を後押しできるか。
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