富士通は9月8日、量子コンピュータを実現する方法の一つ「ダイヤモンドスピン方式量子コンピュータ」の試作機を製作したと発表した。素材に金属原子の「スズ」を用いた試作機は、世界初だという。量子コンピュータの実用化を阻む課題の一つである「大規模化」を解決する可能性があるといい、同社が2020年から続けている研究開発が一歩前進した。
量子コンピュータは、電子や光子などの「量子」が持つ性質を使って、高速な計算を可能にする技術を用いるコンピュータだ。一部の分野で既存コンピュータの計算性能を大幅に上回るとされ、金融や創薬、AIなどの分野での活用が期待されている。
富士通が報道陣に公開したダイヤモンドスピン方式量子コンピュータの試作機。左側の黒い箱が「光学制御機器」、中央に写っているラックにあるのが量子コンピュータの「制御機器」、右奥の白い装置が「冷凍機」で、これらが1つのセットになっている(編集部撮影、以下同)富士通は、ダイヤモンドスピン方式の他に「超伝導方式量子コンピュータ」も開発している。量子コンピュータと聞いてイメージする、金属の柱に囲われた近未来的なデザインの“アレ”だ。2つの方式を軸にして「2030〜2035年度までに実用的な量子計算の実現を目指す」というロードマップを示している。
しかし、開発は一筋縄ではいかないようだ。同社の佐藤信太郎氏(富士通研究所フェロー兼量子研究所長)は9月8日の記者説明会で、試作機の完成を重要な成果だとしつつ、開発の意義や難しさを問われると「ロードマップを出しているが、2030年時点でどれほど実用に足るものになるのか見通せない」「1社でどれだけ投資できるか、非常に難しい部分がある」とも述べた。
それでも、量子コンピュータの開発を止めるつもりはない。9月上旬には、NECが量子コンピュータ開発から撤退したという報道があったが、佐藤氏は「ライバルとして報道は承知している。コメントしにくいが、富士通としては、量子技術を確立し、会社の利益だけでなく日本に貢献したい」と話した。
富士通は今後、量子コンピュータ開発にどう取り組んでいくのか。実用化が遠いとされる同技術を、ビジネスにどう落とし込むのか。佐藤氏が語った。
量子コンピュータは“未来の技術”とされてきたが、開発が着実に進んでいる。量子コンピュータを作るには、計算の最小単位である「量子ビット」を多数並べる必要がある。量子ビットの作成方法の違いから、超伝導方式やダイヤモンドスピン方式など複数のアプローチが生まれている。
開発が進んでいるとされるのが、超伝導方式だ。海外勢が先行しており、米IBMは2016年に、インターネット経由で超伝導方式量子コンピュータを利用できる仕組みを公開した。米Googleは2025年に、計算速度が従来型コンピュータの約1万3000倍に達したと発表している。
国内では、理化学研究所や大阪大学などが、共同開発した超伝導方式量子コンピュータ「叡」「叡-II」を使った量子計算クラウドサービスを提供している。富士通は2025年、当時世界最大級となる256量子ビットの超伝導方式量子コンピュータを開発したと発表した。
超伝導方式は、電気回路を超低温に冷やすことで、電気抵抗がゼロになる「超伝導」という性質を生かして量子ビットを作る方法だ。既存の半導体や電子回路の技術を応用でき、実装が比較的容易だとして開発が進んでいる。しかし、マイナス273度以下に冷却する必要があり、巨大な冷凍機が欠かせない。また量子ビットを長時間安定して保つのが困難で、大規模化が難しいという。
この課題を解決できるとして、富士通が目を付けたのがダイヤモンドスピン方式だ。炭素原子でできた人工ダイヤモンド結晶内に“極小のキズ”を付け、そこに別の原子を入れた構造を量子ビットとして利用する。ダイヤモンドはもともと量子状態を安定的に保ちやすい性質があるといい、超伝導方式に比べて量子ビットを効率的に構成できる可能性がある。また富士通は、超伝導方式よりも高い温度で動作することを今回の試作機で確認したという。
複数の機器を組み合わせた試作機のうち、白い筒状の装置が「冷凍機」だ。この中に、人工ダイヤモンド結晶で作った量子ビットを収めている。
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