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「かすり傷を負ってでも歩く」 日立が見せる覚悟 売り上げ5000億円見込む“AI事業”の拡大にどう挑むか(1/2 ページ)

» 2026年09月10日 07時00分 公開
[荒岡瑛一郎ITmedia]

 日立製作所は9月3日、AIによって社会インフラを変革させるサービス群「HMAX」(エイチマックス)を拡充すると発表した。交通システムや産業現場向けに提供していた従来のラインアップに「データセンター」「サイバーセキュリティ」「データ基盤」「AI運用」に関するサービスを加える。

 同日、日立製作所の徳永俊昭氏(執行役社長兼CEO)は同社イベントで「HMAXによって、フィジカルAIの社会実装を加速させます」と意気込みを見せた。その宣言通り、新たなHMAXの中身はフィジカルAI一色といえる内容だ。

photo 日立製作所主催のイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN」でHMAXについて語る徳永氏(編集部撮影)

 同社は、2025年10月に発表したAI戦略で「フィジカルAI」に注力する方針を打ち出し、HMAXの展開を拡大するとしていた。しかし、今回のHMAX拡充について「1年前の時点でサイバーセキュリティやデータ基盤のサービスを立ち上げていたかと言われると、正直そこまで予見できなかったと思う」と9月3日の記者説明会で明かしたのは、HMAX事業を率いる黒川亮氏(HMAX戦略統括室長 全社CLBO事業主管 AI戦略担当)だ。

 同社は、AI分野の動向をどのように読み取り、顧客が必要とする新サービスの開発につなげたのか。記者説明会に勢ぞろいしたHMAX担当者らの発言には、日立製作所の覚悟が見て取れた。

photo 記者説明会に出席したHMAXの担当者たち(編集部撮影)

「AIデータセンターという特殊な要件」が登場 事業拡大にどう挑むか

 日立製作所は、デジタル技術による社会インフラの変革を掲げている。同社が持つ「IT」(情報技術)と「OT」(制御技術)の知見や専門人材などを総動員して顧客や社会の課題解決に当たる事業モデル「Lumada」(ルマーダ)を展開しており、2025年にAI技術を組み込んだ「Lumada 3.0」にアップデートした。

 Lumadaの中核事業がHMAXだ。2024年に当時副社長だった徳永氏が、米NVIDIAのジェンスン・フアンCEOを訪問したことをきっかけに両社が協力して開発した。物理空間を理解するフィジカルAIと、デジタル空間のデータを活用して、設備の運転状況の可視化や運用の自動化を実現する。

 日立の鉄道事業から始まったHMAXは、交通システム向けの「HMAX Mobility」、エネルギーインフラ向けの「HMAX Energy」、産業現場向けの「HMAX Industry」、金融業務向けの「HMAX Finance」へと領域特化型サービスとして提供範囲を広げてきた。9月3日には、データセンター事業者向けの「HMAX Data Center」を発表した。

 HMAX Data Centerは、データセンターの電力設備や冷却設備、ITインフラなどを横断的に統合監視し、AIエージェントを活用して異常検知や早期復旧、運用改善を支援するサービスだ。設備管理を最適化し、余剰分を販売につなげて、データセンター事業者の収益の拡大に寄与したい考えで、まずは日立グループのデータセンターで効果を検証している。

 HMAX Data Centerの顧客を獲得するための方針について、黒川氏は「『AIデータセンター』という特殊な要件に対するIT業界側からの要望が大きいことは当然だ。(データセンターの運用効率化は電力供給側にも関わってくるため)エネルギー供給側とも密接に動く。それが日立らしいビジネスの構築の仕方だ」と説明した。

photo HMAX Data Centerの概要(出所:記者説明会のブリーフィング資料)

「導き出したのが『かすり傷を負ってでも歩く』という考えだ」

 HMAX Data Centerに加えて、9月3日には各領域の土台として機能する3つのサービス――「HMAX Cyber」「HMAX Data Fabric」「HMAX AI Operations」を発表した。

 HMAX Cyberは、ビジネスや社会インフラの継続性や回復力(レジリエンス)を確保するためのサイバーセキュリティサービスだ。リスクの可視化、早期復旧、継続的な監視をセットにして提供する。

 日立製作所の小岩博明氏(HMAX Cyber担当、Head of Cyber CoE)は、AIの登場によってサイバー攻撃が高速化・高度化していると述べた。システムの脆弱性が発見されてから悪用されるまでの時間が数週間、数時間と短くなっており、いずれ未公表の脆弱性を狙った攻撃が始まる可能性があるとして「攻撃前提の社会インフラに作り変える必要がある」と指摘。「われわれとしてどうすべきか徹底的に考えて導き出したのが『かすり傷を負ってでも歩く』という考えだ。それが事業の継続性であると理解した」(小岩氏)

 HMAX Cyberを提供するに当たり、社内で米Anthropicや米OpenAI、米Googleの「フロンティアAI」を使っている。HMAX Cyber事業で筆頭ホワイトハッカーを務める青山桃子氏は、AnthropicのフロンティアAI「Claude Mythos Preview」を使い、日立製作所の社会インフラ向けソフトウェアを検証したところ「人間が到底見つけられなかった脆弱性を発見できた。脆弱性の検証を高度化・高速化できる」と話した。

photo サイバー攻撃が高速化・高度化している(出所:記者説明会のブリーフィング資料)

 HMAX Data Fabricは、現場のデータをAIが活用できる状態にして管理するデータ基盤サービスだ。作業員が持つナレッジや暗黙知を抽出・構造化して整理し、センサーや設備から収集したデータと合わせて蓄積する。

 HMAX AI Operationsは、AIの安定稼働を支えるサービスだ。AIの不適切な挙動を監視・修正し、重要なシステムでの「止まらないAI運用」を実現する。

photo HMAX Data FabricとHMAX AI Operationsの位置付け(出所:記者説明会のブリーフィング資料)
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