生成AIの熱狂を経て、2026年は「フィジカルAI」が覇権を争う主戦場となる。日立製作所、NEC、富士通の経営陣は、実社会の「現場」や「身体性」に日本の勝機があると口をそろえる。
インフラ制御の日立、生体認証のNEC、そして空間認識の富士通──。各社が持つフィジカルなアセットとAIを融合させ、米巨大テック企業には模倣できない「日本流」の勝ち筋をどう描くのか。3人のリーダーに、社会実装へのロードマップを聞いた。
1回目:NEC社長に聞く「フィジカルAI」の勝算 「AI・DX事業で1兆円」への手応えと課題は?
2回目:富士通社長「フィジカルAIこそ日本の勝ち筋」 NVIDIAと挑む“脳”の開発
3回目:ロボットが“空気”を読む!? 富士通が描く「空間を理解するフィジカルAI」の正体
4回目:本記事
学研が挑む"真のDX"──「本当に使われるデジタル」で目指す教育価値のバリューアップ
【開催期間】2026年1月27日(火)〜2月25日(水)
【視聴】無料
【視聴方法】こちらより事前登録
【概要】学研グループは、DXを目的化するのではなく、現場と顧客にとって“本当に使われるデジタル”を出発点に教育価値のアップデートに挑戦しています。本講演では、現場で浮き彫りになった課題や、実際に行ってきた改善や仕組みづくり、そこで得られた知見がどのように学研のDX推進を形づくんできたのかをお伝えします。既存のデジタル活用の成果と学びを振り返りながら、学研が目指す“真のDX”の姿をご紹介します。
2030年に「フィジカルAI」市場は20兆円市場へ──。生成AIの次に覇権を握ると目される「フィジカルAI」は、日本企業に勝機をもたらすのか。
IT各社が開発を急ぐ中、日立製作所のアプローチは一線を画す。 阿部淳副社長は「狙うのは鉄道、電力、製造といった社会インフラの“現場”そのものを一つのシステムと捉え、熟練者の暗黙知や設備の挙動を丸ごとAIで最適化する世界」と断言する。
米NVIDIAのジェンスン・フアンCEOも「稀有(けう)な存在」と認めた日立独自の強みとは何か。ITと制御(OT)、そしてプロダクトを持つ日立だからこそ描ける、労働人口減少時代の「現場の変革」とは?
【日立・阿部副社長に聞く“最高益”更新の舞台裏 巨額赤字から組織を復活させた変革とは?】に引き続き、阿部副社長にインタビューした。
阿部淳(あべ・じゅん)1984年、日立製作所入社。 ITソフトウェア開発に従事したのち、データストレージやクラウドなどのサービスプラットフォーム部門で事業責任者を歴任。大みか事業所長を経て、2018年4月に産業・流通ビジネスユニットCEOを務めた。2024年4月に代表執行役 執行役副社長。2025年4月よりデジタルシステム&サービス(DSS)の事業責任者。1961年生まれ。宮城県出身(以下撮影:河嶌太郎)――AIで社会インフラの革新を目指す次世代ソリューション群であるHMAXに関連して、日立が考える「フィジカルAI」について伺います。他社はIT側からのアプローチが中心に見えますが、ハードを含めた事業を持つ日立では、フィジカルAIをどう定義していますか。
フィジカルAIの市場規模は、AIエージェント、いわゆるエージェンティックAIの3倍程度になるとか、2030年には20兆円規模になるといった見立てもあります。それだけ大きなマーケットなので、同業他社で多様なアプローチが出てくるのは自然なことです。
その上で、私たちが考えるフィジカルAIというのは、センサーや(電気・空気圧・油圧などのエネルギーを、直進運動や回転運動といった機械的な動きに変換する)アクチュエーターなどから現場のデータを取得し、それを基に価値を生み出していく発想がベースにあります。
分かりやすい例として、ヒューマノイド型ロボットが人間の代わりにどこまで作業できるかといった「テクノロジーとしてのフィジカルAI」の議論が多いように感じています。ですが、私たちの捉え方は少し違います。どちらかというと人をサポートする、社会インフラの安定稼働につなげるといった観点からフィジカルAIを位置付けています。
日立はもともとハードの会社であり、制御もITも持っています。しかし前提としているのは自社のハードだけではありません。パートナー企業のハードも含め、顧客が実際に使っている設備や機器を全て含めた全体のシステムを対象にしています。ITのシステムだけをシステムと言っているのではなく、フィジカルを含めた全体を一つのシステムとして捉え、その中でAIをどう使うかを考えるのが私たちのスタンスです。
――フィジカルAIの強みである暗黙知の継承については、どう考えていますか。
システム全体の中で、私たちはいくつかの重要な課題に取り組んでいます。それは現場の熟練者が持つノウハウをどうデジタル化するか、インフラをいかにして安定して動かし続けるか、老朽化した設備をどう持続可能な形で使い続けるかといったテーマです。
その際には、人間では追いきれないスピードによってデータを検知・解析し、顧客の価値につなげていきます。例えば、プラントや鉄道、電力といったインフラの安定稼働を支えたり、遠隔でのメンテナンスやバーチャルサポートを提供したりすることで、人とインフラの両方を支える。労働人口が減る中で、こうした取り組みを通じて社会課題の解決に貢献していくことが、私たちが考えるフィジカルAIの基本的な狙いです。
2年ほど前に德永(俊昭)社長がNVIDIAのジェンスン・フアンCEOと会った際、德永社長は、「日立はITだけでなく、制御やプロダクトも持っていて、その全体をカバーできる」と説明しました。するとフアンCEOは「そこが違う。データを使って価値を生み出すケイパビリティーをあなたたちは持っている。そういう意味では稀有な存在だ」と評価したそうです。私も、それはその通りだと思っています。
フィジカルAIの領域では、いろいろな企業がそれぞれの強みを生かして取り組むと思います。私たちは、社会インフラという現場を丸ごと捉え、その中でデータを使って価値を生み出していく日立ならではのバリューを発揮し、社会課題に貢献していきたいと考えています。
当社は創業者の時代から「優れた自社技術・製品の開発を通じて社会に貢献する」という理念でやってきました。その理念に共感して入社している社員が今も多い会社です。社会に貢献することに対して、皆のモチベーションが上がる土壌があるんですね。
もちろん、そのためにはしっかり稼いで投資もしなければいけない。ビジネスとして成り立たせることは大前提です。しかし、企業理念として社会インフラや人口減少、働き方といったテーマに焦点を当てているからこそ、そうした領域にフィジカルAIを生かしていきたいと強く思っています。
――日立が目指す「フィジカルAIの世界トップの使い手」とは、具体的にどのような状態だとお考えですか。
私たちが目指しているのは、広い意味で「AIの一番の使い手」になることです。日立グループ全体で社員が約28万人いますが、そのうち12万人ほどがデジタル系の部隊です。それくらいの規模を社内に抱え、システム全体を相手にしているのが私たちの特徴です。
日立の本質はシステムインテグレーター、SIerだと考えています。この「システム」とは、ITシステムだけではありません。エンドツーエンド(上流から下流まで)で設備・制御・ITを含んだ全体を一つのシステムとして捉え、その中にAIを組み込んでいく。ミッションクリティカルな領域も含めて、そこにフィジカルAIやジェネレーティブAI、エージェンティックAIなど、さまざまなAIを適材適所で組み込み、最も適切なかたちで使いこなす。
その意味での「使い手」として世界トップを目指しているイメージです。
――日立は自社で生成AIの大規模言語モデル(LLM)を主立って開発はしていません。なぜ開発しないのでしょうか。
われわれは、いわゆるLLMそのものの領域について投資対象にはしていません。そこはパートナリングで十分だと考えています。LLM開発のプレーヤーたちの投資のスピードと規模には私たちはついていけませんし、ついていくべきでもないと思っています。生成AIは最終的には価格や条件で選ばれる汎用品化、いわゆるコモディティ化していく可能性が高いと考えています。
そういうコモディティになるレイヤーは、私たちにとってはあまり価値がないというか、そこで戦うべきではないと考えています。私たちが100年以上かけてやってきたのは、電力、鉄道、ものづくりなどのインフラ分野での事業であり、そこで培ったドメインナレッジ(専門領域における知見)こそが最大の財産であり強みです。
このドメインナレッジがあるからこそ、顧客は「日立なら分かってくれる」と頼ってくれます。
そうした顧客と同じ言葉で対話できるドメインナレッジの上に、デジタルの部門がいて、そこでAIを最適に使う。その際には、人間も間違えるし、AIも当然間違うという前提に立ちます。その上で、どう使えば安全なのかを設計する必要があります。
鉄道信号を例にとれば、必ず「保護制御」という考え方があって、ここから先は起こり得ないという範囲をガードする仕組みがあります。これはドメインナレッジがなければ設計できません。
私たちは、そうしたシステム全体を守る仕組みをつくり、何かあったときに早く原因を突き止め、影響をできるだけ小さく抑える。その上で、システムの中にAIをはめ込んでいきます。単に、人間の代わりをするAIではなく、システムの中でAIをどう生かすかを設計する。これが、日立が目指す「世界トップのフィジカルAIの使い手」の姿だと考えています。
【イベント情報】学研が挑む"真のDX"
学研グループは、DXを目的化するのではなく、現場と顧客にとって“本当に使われるデジタル”を出発点に教育価値のアップデートに挑戦しています。本講演では、現場で浮き彫りになった課題や、実際に行ってきた改善や仕組みづくり、そこで得られた知見がどのように学研のDX推進を形づくんできたのかをお伝えします。既存のデジタル活用の成果と学びを振り返りながら、学研が目指す“真のDX”の姿をご紹介します。
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