「日立が目指すのは、フィジカルAIが刻々と変化する社会インフラの状態を把握し、運用を改善し進化させる、自律進化するデジタルインフラだ。これは、人間社会が初めて目の当たりにする世界になる」――日立製作所(以下、日立)の徳永俊昭氏(執行役社長兼CEO)は9月3日、同社イベントの基調講演で熱弁を振るった。
鉄道、エネルギー、製造などの分野に強みを持つ日立は、デジタル技術による社会インフラの変革に取り組んでいる。徳永氏は、これまで現場の人材が支えてきた社会インフラが限界を迎えていると指摘。「2040年に1100万人分の労働力が不足する」という推計を示し「守るべきものは増えるが、現場を支える人は増えない」と危機感をあらわにした。
「この矛盾に向き合う鍵がフィジカルAIだ。そのインパクトは特定の業界にとどまらず、あらゆる現場を革新できる可能性がある。フィジカルAIを使って現場を革新するデジタルサービスは、社会インフラを動かす『OS』(基本ソフトウェア)になると考えている」(徳永氏)
フィジカルAIは、AIを組み込んだ機器やシステムが現実世界を理解して、自律的に判断・動作する技術だ。世界中の企業が開発・実装に取り組んでおり、競争と技術進化が激しさを増している。それでも日立には「グローバルトッププレーヤーとして届けられる価値がある」と徳永氏は自信をみせた。
「かつて英国から産業革命が始まったように、インターネット世界のつながり方を変えたように、今度は日本発の挑戦で未来を変えよう」――こう訴えた徳永氏。日立が見据えるフィジカルAIの“勝ち筋”について、同氏がイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2026 JAPAN」の基調講演で語った。
基調講演の冒頭で、徳永氏は「今から100年後、2026年が教科書に載るとしたらどう書かれるだろうか」と問いかけた。「私ならこう書く――『フィジカルAI元年』と」(徳永氏)
同氏は「フィジカルAIは、企業が生み出す価値を飛躍的に増加させるポテンシャルを秘めている」と持論を述べた。AIが熟練したフロントラインワーカーと同じように判断し、行動すれば、人は高度な仕事に集中できる。自律進化型の社会インフラになれば、そうした未来が可能になるというのだ。
徳永氏は、フィジカルAIを現実世界に実装するためにクリアすべき段階を4つに整理した。
フィジカルAIに取り組む企業は、アプローチしている段階が異なるという。例えば、米NVIDIAは上記の第1〜2段階に注力してフィジカルAI開発に向けたデジタルツイン基盤「NVIDIA Omniverse」を提供している。
では、日立はどこに取り組むのか。徳永氏は、第3〜4段階に注力すると説明した。「AIを現場に実装し、安全に稼働させるためには、現場固有のルールを学び、実践することが不可欠だ。IT(情報技術)、OT(制御・運用技術)、プロダクト(製品、システム)を通じて、顧客の現場を支えてきた日立だからこそ、第3〜4段階で価値を発揮できる」(徳永氏)
フィジカルAIの現場実装が急がれる中、徳永氏は「3領域を統合し、安全かつ持続的に価値へと変える力が求められている」とした上で、日立が培ってきた「IT」「OT」「プロダクト」の強みを強調した。同社はAIを含むIT領域に80年以上取り組んでおり、190の国や地域でOTを展開。これらを創業以来116年にわたって高品質なプロダクトとして提供してきた。
「(IT、OT、プロダクトに加えて)日立には、幅広い事業領域がある。多様な社会インフラを支え、その現場を理解している企業は世界を見渡してみても決して多くはない。フィジカルAIが真価を発揮するのは、複数の領域にまたがって社会インフラをつなぎ、運用全体を最適化したときだ」(徳永氏)
IT、OT、プロダクト、多様な事業領域をかけ合わせる取り組みが結実したのが、2016年に生み出した事業モデル「Lumada」(ルマーダ)だ。同社が持つ技術、データ、ナレッジ、人材を結集して顧客課題の解決を支援する。2025年には、AIを組み込んだ「Lumada 3.0」にアップデートした。
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