福島氏はトークンマキシングの次の段階を「トークンエコノミクス」と呼ぶ。LayerXは個人ごとに金額の上限を設け、枠の中で使い方を工夫するよう促した。上長を通じて申請すれば枠を増やせる。同時に自社でLLMゲートウェイとモデルルーターを作り、仕事に応じてモデルを振り分けた。社員がツールにログインすると、費用の数字と一緒に、プロンプトのどこを直せば費用が下がるかが表示される。福島氏自身も「ここのプロンプトキャッシュ(一度処理した入力データをAIのサーバ側に一時保存し、コスト削減と高速化を実現する仕組み)が効いていなかったよね」と指摘を受けるという。この結果、トークンの利用量は減っていないが、費用は抑えられているという。
マネーフォワードも同じ形の上限金額を置いている。同社CTO室の渡辺慎也氏によると、AI利用には個人ごとの上限があり、「制約があるからこそ初めて、その人がその使い方を考える」。効率が良くなった人には枠を広げる試みも一部で始めている。単価の安いモデルを選んでも、処理に2倍の時間とトークンがかかって「結局同じぐらいのコストになる」場合もある。そこで、用途ごとに複数のモデルを比べている。
両社に共通するのは、上限という制約を評価の代わりに使っている点だ。仕事の出来を測る評価は会社ごとに違っていて、用意するのに手間がかかる。一方、費用の評価は請求書がそのまま担ってくれる。何円使い、何円下がったかは翌月には分かる。だから費用のループは、仕事のループより先に閉じた。上限の中で人間が使い方を考え、ゲートウェイが直す箇所を返す。同じ輪を業務品質の側でも回そうというのが「3つのループ」である。
グッドの知能爆発は、機械が次の機械を設計するときに起きるとされた。対象がモデルの重みかハーネスかの違いはあっても、AIがAIの次の版を作るという輪の形はAnthropicもLayerXも同じである。仕事の自己改善が業務の工程になり始めた。
そのための評価として、費用の輪には請求書があり、開発の輪にはテストがあった。ループがうまく回るかどうかは、評価が最初から手元にあるかで決まる。仕事のループでいえば、決算の案文ルールや法務レビューの基準といった閉じた知識を、どれだけ速く評価の形に落とせるか次第だ。
月30万円が消費か投資かも、そこで分かれる。ループが閉じていなければ、トークンマキシングで使ったトークンは覚えない社員に払う給与のままだ。ループが閉じれば、同じトークンが翌月のAIを変える。
AIが自ら実行し改善する時代において、人間の役割は「作業」から「自社の評価基準を定義して与えること」へ移行した。福島氏の講演から1年後に問われるのは、費用の額ではなく、自社の評価をAIに渡せる形で持っている会社がどれだけあるか、という点になるだろう。
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