この課題はデータにも表れていた。経費精算における「差し戻し率」を計測したところ、業界の上位水準が6.4%であるのに対し、同社は20.7%と約3倍だった。厳格なガバナンス体制をとっている背景があるとはいえ、無視できない数字だ。
差し戻しの多発は、組織に3つの深刻な影響を及ぼす。1つ目は、計上と支払いの遅延リスク増大という「業務の停滞」。2つ目は、不備指摘が連発することで、現場社員に申請業務に対する嫌悪感を抱かせてしまう「心理的抵抗感の定着」。そして3つ目が、経理が形式チェックに追われることで実態審査が困難になる「ガバナンスの有効性の低下」だ。
これらの課題を解決するため、経理部門は詳細なマニュアルを整備したが、状況は好転しなかった。松澤氏はその理由を「マニュアルの限界」と表現する。
「マニュアル上でキーワード検索をしても、正解にたどり着けない『探せない』問題や、操作画面とマニュアルが切り離されているために『活用しづらい』といった問題がありました」(松澤氏)
マニュアルを増やせば増やすほど「どこに書いてあるのか分からない」「探せないので教えてください」という問い合わせが増える悪循環に陥っていたという。
高い差し戻し率と膨大な問い合わせをどう解消するか。松澤氏らが導き出した解決策は「マニュアルを探す手間をなくし、迷う瞬間に画面上でナビゲートする」ことだった。そのための手段として、画面上で操作ガイドやナビゲーションなどを表示するデジタルアダプションプラットフォーム「WalkMe」の導入に踏み切った。
「経費精算システムの画面操作中、まるで隣に経理の熟練担当者が座っていて『次はここをクリックして』『ここは例外だから備考欄に理由を入れて』と教えてくれるような状態を、システムの画面上に作り出すことを目指しました」(松澤氏)
入力内容に不足があれば、システム上で提出前にアラートを出し、そもそも差し戻しが発生しない環境を構築する。
松澤氏がこのプロジェクトの最終的な目標として据えているのは、単なる業務効率化ではない。「期待しているのは『付加価値業務へのシフト』です。経費精算の形式的なチェックに時間を取られるのをやめ、そこで生み出した時間を、経営管理の高度化という経理本来の役割への投資に回す。これが私たちの目指す姿です」(松澤氏)
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