タミヤのラジコンはこうしてブームになった:一大ブームの仕掛け人たち(6/6 ページ)
「レーサーミニ四駆」の先駆けとして、1980年代半ばにブームを巻き起こしたタミヤのラジコン(RCカー)。そのブームはどのように作られていったのか。そして、そこにはある他社商品の存在があったこと抜きには語れない。
グラスホッパーとホーネットの簡素な車体構成は、専門誌関係者や玄人集団から厳しく評価されたが、商品としての主眼は明快で分かりやすかったし、軽妙で刺すような走りは取材時のプレス関係者のウケも良かった。
当時のコロコロコミックの読者向けイベント「コロコロマンガまつり」などでは、ホーネットの速さが際立つようなデモ走行を見せた後、体験操縦会でノーマルのグラスホッパーを操作してもらい、ユーザーに難しいものではないこと印象付けた。その結果、体験操縦会は所定時間内に終わらないほどの参加者の列ができた。
こうなると、嬉々とした子どもを見ていた親からは「どこで売っている?」と尋ねられ、会場の百貨店の店員からは「なぜ物販をやらない?」と問われ、急遽、その百貨店の玩具売場に問屋から納品してもらうようなことも起きた。
この2台が互いに惹き合うようにして小・中学生へ広がっていくのが肌でも分かった。近い選択肢を提示することの効果であり、どちらか一方しかなければマイティフロッグのような上位車種との直接比較になり、購入動機を狭めたはずだ。
グラスホッパーとホーネットの人気は、漫画ラジコンボーイのストーリーにも練り込まれていった。後に主人公が操るオリジナルマシン「スーパードラゴン」が登場するきっかけにもなったのだ。
タミヤは、グラスホッパーとホーネットのシャーシーに合わせたスペアボディセットとして、スーパードラゴンを製品化することになる。当初は一般の小売店では扱わず、コロコロコミック独占通販だった。しかし思った以上の反響を受け、やがて一般の市場にも流通する。タミヤがIPキャラクターものを商品化する動きは、1968年に制作されたジェリー・アンダーソンの特撮人形劇「JOE 90」シリーズ(※「JOE 90」は、「サンダーバード」「キャプテンスカーレット」を手掛けたイギリスの映像作品プロデューサー、ジェリー・アンダーソンが、1968年に手掛けた特撮人形劇)の「マックスカー」以来のことで、日本のコミック雑誌に登場するキャラクターの模型化は初めてのことだった。
こうしてその後、ラジコンボーイに登場する「ファイヤードラゴン」「サンダードラゴン」「セイントドラゴン」を次々と製品化していく。このことが「レーサーミニ四駆」の誕生につながるのは、そう遠い話ではなかった。(つづく)
関連記事
- “オヤジ”たちが今なおミニ四駆に熱狂する理由
模型メーカーのタミヤがレーサーミニ四駆を発売してから30年。かつて社会現象となったミニ四駆が、今また盛り上がりを見せているのをご存じだろうか。タミヤの社員としてミニ四駆の誕生から携わり、「前ちゃん」という愛称でブームの火付け役としても尽力した前田靖幸氏がその舞台裏を語る。 - ファミコンブームの誕生とハドソン成功の理由
任天堂が発売した家庭用ゲーム機「ファミコン」は、80年代を代表する社会的な大ブームを巻き起こしました。どのようにしてそのブームはでき上がっていったのでしょう? その裏側にあったものとは? 立役者の一人である高橋名人が語ります。 - なぜタミヤはクオリティの高い商品を生み出し続けられるのか?
ミニ四駆ブームがいかに起きたのかについて前回紹介したが、そのメーカーであるタミヤの商品クオリティの高さが1つの要因であった。そこで今回はなぜタミヤが優れた商品開発を行えるのか、そのバックグラウンドに触れたい。 - 競合ゲーム機「PSP」の脅威が任天堂社内を変えた
「Wiiのプレゼンテーションを最も多く経験した男」。任天堂の岩田元社長からもそう評された玉樹さん。本連載では、Wiiの開発担当者として、いかに商品を生み出し、世に広めていったか、そのプロジェクトのリアルをお伝えします。 - なぜ「ビックリマン」は年間4億個を売り上げるまでのブームになったのか?
1980年代後半、日本中の子どもたちの間で爆発的なヒット商品となったのが「ビックリマンチョコ」だ。なぜビックリマンは年間4億個も売れるほど大ヒットしたのだろうか……? - 最初はまったく売れなかった明太子、どうやって福岡から全国区に?
日本で最初の明太子メーカーが、福岡市中洲に本社のあるふくやだ。創業すぐに明太子の販売を始めたが、実に10年間も鳴かず飛ばずだったという。そこからいかにして明太子は福岡の名産品にまで育ったのだろうか。 - 地ビールブームから一転、8年連続赤字で“地獄”を見たヤッホーブルーイング
現在、11年連続で増収増益、直近4年間の売り上げの伸びは前年比30〜40%増と、国内クラフトビール業界でダントツ1位に立つヤッホーブルーイング。しかしここまではいばらの道だった……。井手直行社長が自身の言葉で苦闘の日々を語る。 - “あたらない”カキは作れるのか? オイスターバー最大手の挑戦
生ガキなどを提供するオイスターバーの市場が日本で急拡大しているのをご存じだろうか。過去5年間の平均成長率は11%を超える。そのけん引役として今年3月にマザーズ上場を果たしたのがヒューマンウェブだ。ただし、ここまでの道のりは決して楽なものではなかったという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.