銀行マンが転職できるか真面目に考えてみた:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
メガバンクの大規模な人員削減計画が大きな話題となっている。そこで注目されるのが銀行マンの去就だが、彼らが他業種に問題なく転職できるのか考察してみた。
高学歴のプライドが邪魔をする?
ここまでは実務上のスキルという話だが、銀行マンにはもう1つ大きなカベがある。それはメンタルな部分での意識改革である。
メガバンクの行員は高学歴者が多く、基本的にプライドが高い。また、先ほど説明したように銀行の立場は強く、顧客対応で惨めな思いをする機会は少ない。銀行マンは総じて頭が良いので、表面的にはソフトに振る舞うが、高いプライドが邪魔をして中堅中小企業のカルチャーに溶け込めないケースがある。
以前、筆者がある企業の社外役員をしていた際、銀行出身の経理部長を注意したことがある。その会社は、経営環境が大きく変わっており、社長は銀行との付き合い方を見直そうとしていた。ところが銀行出身の経理部長は、社長に対して「銀行に対して失礼な態度を取るべきではない」と上から目線でたしなめるような言い方をした。
会社の経営者にとって、自社の利益やそこで働く従業員を最優先に考えるのは当然のことであり、銀行との付き合い方は本来、ドライであるべきだ。この経理部長に悪意はなかったかもしれないが、銀行の方がエライという先入観があると、こうした場面で、無意識的にそれが表面に出てしまうのだ。経理部長は元銀行マンなので表面的には筆者の指摘を受け入れたが、おそらく本心では納得していなかっただろう。このようなタイプの人は長く続かない。
財務や経営に関する知識を持つ人材は少ないので、実務的なスキルを蓄積した銀行マンなら、転職先はたくさんあるはずだ。
こうした知識に加え、自らの立場を理解できる現実的な感覚があれば、たとえ銀行を去ることになっても、将来に関して何も恐れる必要はないだろう。だが、高学歴であることや銀行マンであることに過剰なプライドを持っていた人は要注意かもしれない。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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