牙をむき始めたトランプ政権 対日貿易交渉で自動車産業はどうなる?:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
米国・トランプ政権が日本をターゲットにした貿易交渉に動き始めた。日本側が米国の要求をすべて拒否するのは難しく、何を捨てて何を取るのかという選択になるのはほぼ確実といってよい。
牛肉の輸入拡大か?
トランプ政権の最終的な狙いは貿易赤字の削減と考えられるが、自動車への関税を発動しないのだとすると、残された方法は2つしかない。1つはトヨタなど日本の自動車メーカーに現地生産化を強く要請する方法、もう1つは日本が農作物などの輸入を大幅に拡大する方法である。
11月の中間選挙まで時間がないことを考えると、現地生産の強化は選択されない可能性が高い。現地生産の強化で合意しても、実際に成果が出るまでには数年の時間が必要であり、米国の有権者は具体的な果実を実感できない。
一方、牛肉など農作物の輸出拡大はすぐに成果が得られるので有権者にアピールしやすい。
これまで米国は何度も日本政府に対して農作物の市場開放要求を行っており、政府間交渉の実務という点でも、米国にとって取り組みやすいテーマといえる。
日本は現在、米国抜きでTPP(環太平洋パートナーシップ)協定を結んでおり、米国にも参加を呼び掛けているが、米国は基本的に日本との2国間交渉を望んでいる。もし米国側の最大の狙いが牛肉などの市場開放ということであれば、この部分についてかなり強引な交渉を進めてくる可能性が高い。
仮に米国との2国間交渉で牛肉の関税が引き下げられてしまった場合、多国間の枠組みであるTPPは完全に振り出しに戻ってしまう。
米国産牛肉の関税が下がれば、外食産業などにとっては追い風となり、消費にも多少、プラスの影響がもたらされるだろう。一方で農家に対する支援をどうするのかという大きな問題が残されることになり、内政的には少々やっかいな状況となる。確率は低いものの、交渉が決裂し、自動車への関税発動となった場合には、日本経済にとって極めて大きな逆風となるのは間違いない。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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