人手不足に悩む飲食業界は「効率化」で“味気なく”なるのか?:続々進む「無人」と「省人」 気になるお店の狙いを探る(4/4 ページ)
人手不足に悩む飲食業界。帝国データバンクの発表によると、非正社員の不足度数は全業種で最多だ。こうした状況をテクノロジーの導入で解決しようとする店は少なくない。しかし、テクノロジーの導入によって効率化が進むと、食事は「味気なく」ならないのか?「無人・省人」特集の第2回として、飲食店にフォーカスを当てる。
調理だけを行う「ゴーストレストラン」
最後に、SENTOEN(東京都渋谷区)が運営する「Kitchen BASE(キッチンベース)」を見てみよう。キッチンベースは「ゴーストレストラン」「クラウドキッチン」と呼ばれる業態で、その名の通りスタッフどころか「店」の実体が存在しない。つまり、客席を取らず、店舗には調理スペースしか構えていない。お客からの注文に合わせて調理し、配達を行うビジネスモデルだ。
名前こそ斬新なものだが、こうした業態は以前からあった。旧来のピザや寿司配達店のような、デリバリー専門店がそれに当たる。ゴーストレストランには、新規開店するコストを抑えられるメリットがある。同社の山口大介社長によると、ゴーストレストランの発祥は米国。10年ほど前から、都市部を中心とした家賃の高まりを背景に、開業資金を抑えて始められる点からじわりと規模を拡大してきたという。
米国だけでなく、日本でも都市部では家賃が高止まりしている。こうした背景を受けて、19年6月の開店に先立って入居者を募集した際には150件近くの応募があったという。今でも、数十店舗が順番待ちをしている。当時、入居者を選考した際に重視したのが「スピード、味、コミュニケーション」(山口氏)だという。注文が入ってから提供するまでのスピードや料理の味、というのは分かるがコミュニケーションを重視したのはなぜなのだろうか。
解答は、キッチンベースの業態にある。キッチンベースでは調理場を入居者同士で共有するため、それぞれの店舗の担当者同士の交流も盛んだ。通常の飲食店では同じエリアに位置する店舗同士は“競合店”としていがみ合う関係になりがちだが、キッチンベースでは入居者同士が良好な関係性を築いている。当初カレー店として入居した店舗が、入居しているタイ料理店と協力して新たなメニューを構築したこともあるという。
なお、キッチンベースでも他のサービスと同様に、注文データからお客のデータ分析を行っている。注文割合としては休日の方が、単価が30%ほど高い傾向にあるという。店舗まで商品を取りに行くモバイルオーダーと違い、家まで届けてもらえるため、「ハレ」の日の豪華な食事として利用されているケースが思い浮かぶ。
山口氏は「飲食店はリピーター獲得などのために、これからどんどん双方向性を重視する必要がある。効率化のためにテクノロジーの導入は進んでいるが、店舗とお客さまとのコミュニケーションは加速していくはず」と話す。
山口氏の言う通り、ここまで見てきたサービスはどれも単なる「効率化」だけではなく、お客とのコミュニケーション構築にも役立てられていることが分かった。新たなテクノロジーによって飲食店が「味気なくなる」というのは、単なる杞憂(きゆう)だったようだ。
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