膨らむ経済損失と不満 世界で始まった「コロナ訴訟」:世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)
緊急事態宣言が5月末まで延長され、経済活動の停滞が続くことになった。米国などでは、中国政府に損害賠償請求の訴えを起こすケースが増えている。また、企業や大学までも訴えられた。不満がさらに高まれば、日本でもそのような動きが増えてくるかもしれない。
中国政府に「損害賠償」を求める動き
まずは、中国政府に対する損害賠償請求だ。5月1日、米ワシントン・ポスト紙は、米政府高官らが中国に金銭的な賠償を要求する可能性を検討し始めていると報じた。また、その数日前には、ドナルド・トランプ大統領も「責任を負わせる方法はいろいろある」と、損害賠償請求を示唆したという。つまり、米政府が、新型コロナウイルスの対応を誤ったとして、中国に対して金銭的に責任を取らせようとしている。
また米国では、民間から集団訴訟も起きている。ネバダ州やフロリダ州、テキサス州では、弁護士組織や企業などが集団訴訟を立ち上げた。新型コロナによってビジネスが成り立たなくなっているとして、中国政府や、新型コロナが漏れたとの指摘がある武漢のウイルス研究所の関係者などを訴えている。
さらにミズーリ州では4月21日、州司法長官が、中国政府は新型コロナの危険性についてうそをついて隠蔽したとして損害賠償を請求する訴訟を起こした。全米でも初めてのケースだが、州司法長官は、多くの人が感染し死亡していることに加えて「前代未聞の失業保険受給申請」があると嘆いている。
ただ国家を訴えることが可能なのかという議論もある。国家主権による免責特権があるからだ。6兆ドルを求めるフロリダ州の集団訴訟にも関与している、トランプ大統領と近い関係の人物は、その免責特権を剥奪する方法を検討している。もしかしたら新たな法律が必要になるかもしれないとも言われている。ただ、そういった議論は行われているという。
中国政府を訴えるケースは米国以外でも起きている。エジプトでは、弁護士が中国の習近平国家主席に対して、新型コロナの感染を拡大させたとして10兆ドルの損害賠償を求める訴訟を立ち上げている。イスラエルでは、有名なNGOが中国政府を相手取って数兆円規模の集団訴訟を起こすと報じられている。
また、すでに触れた米フロリダ州の集団訴訟を立ち上げた弁護士事務所には、トランプと近い人物だけでなく、2020年の大統領選で民主党大統領候補にほぼ決定しているジョー・バイデン前副大統領の兄弟もアドバイザーとして関与している。国外から原告団に加わる人たちもどんどん増えており、その数は40カ国の1万人に上る。世界的な訴訟になる可能性も高まっている。例えばオーストラリアでは1000人以上が参加している。
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