コロナ後の働き方? 「ジョブ型雇用」に潜む“コスト削減”の思惑:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/5 ページ)
コロナ禍で在宅勤務が広がり、「ジョブ型」雇用の導入に向けた動きが注目されている。しかし、時間ではなく成果で評価する「高プロ」制度は浸透していない。労働時間規制を免除できる制度を模索しているだけでは。それは「雇用する義務の放棄」でしかない。
狙いは「投資家のための労働制度改革」
先の意見書が出された当時、日経産業新聞では、以下のように報道しています(要約)。
「ACCJは『同制度は優秀なホワイトカラーにやる気と自信を与え、日本の国際競争力も向上する』と主張している。同制度では、働く人が忙しいときは深夜まで働ける一方、暇なときは早退することも可能だ。仕事の成果や組織への貢献度で給与を決めるので、残業しても給与は増えない。米国では年収2万3660ドル(約270万円)以上のホワイトカラーが対象だが、日本では年収800万円以上を対象とすべきだと提言している。厚生労働省は2007年の通常国会で同制度の法制化を目指し、経団連は導入に賛成している」(2006年12月7日付日経産業新聞から)
一方、しんぶん赤旗ではこう報じています(要約)。
「これは際限ない長時間労働を合法化する制度だ。ACCJは『管理監督者』の範囲拡大や、年収800万円以上は全て対象にすることを主張。また、事務職、専門職、コンピュータ関連のサービス労働者、外回りの営業職にも適用を求め、深夜労働の割増賃金は『労働コストの上昇を招くだけ』と廃止を要求している。労働時間規制を撤廃し、日本に投資した米国企業が米国流で労働者を使えることを目指している」
前者は「労働者のやる気」を、後者は「投資家が米国流で労働者を使えること」にスポットを当てていますが、提言書全体を読めば「投資でもうかる人のための労働制度改革」であることは明白。以下は提言書の要約・抜粋です(提言書のWebでの公開期間は終了)。
- 効率性、能力、生産性に優れた労働者が、能力の劣る者より高い報酬を得られる仕組みは、海外投資家にとって競争力のある魅力的な市場となる
- 労働時間規制の適用除外労働者に対する深夜業の割増賃金の廃止を要請する
- 深夜業の割増賃金制度は、現代のホワイトカラー労働者の働き方に適さず、労働コストの上昇を招くだけ
さらに、過労死についても言及していますが、ここは結構大切なポイントなので、原文のまま掲載します。
ホワイトカラー・エグゼンプション制度を批判する者は、過労死を助長しかねないと主張している。しかしながら、ACCJはむしろ、日本の現行制度に基づき労働時間規制の対象となっているホワイトカラー労働者から、より効果的に、より生産的に働く意欲を引き出すことができるのではないかと考えている。労働者の健康と安全については別に規制が行われており、日本の各企業の健康・労働安全保護のための制度に従って使用者による運用に委ねられるべきである。
……なんだか書いているだけで気分が悪くなってくるのですが、大ざっぱにまとめると、「残業代とか払うのばからしいから、さっさとやめてよ。そうしたらもっと海外投資家が投資するよん! 過労死は別の問題。こっちはちゃんと企業が規制すればいいでしょ? 僕たちの要望とは関係ないよ〜」ってことでしょう。
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