もはや時代遅れ? 今こそ日本企業は“コミュ力”信仰から脱却すべきワケ:リスクも多い、“コミュ力”採用(3/4 ページ)
経団連が発表した教育界への提言が、波紋を呼んだ。経済界が教育界へ提言をする一方で、経済界も変わる必要が求められているといえる。その一丁目一番地は、“コミュ力”信仰かもしれない。
メンバーシップ型では、社員の能力に合わせて仕事をあてがいます。新卒で入社した社員は企業によって教育され、人事からの指示でさまざまな部門に配属されながら業務能力を高めていきます。
その点、あらかじめポジションに見合った能力が備わっている人材を採用する、欧米のようなジョブ型雇用とは対照的です。日本企業は、未経験者の能力をゼロから磨き、自社戦力へと育成できる優れた教育カリキュラムを有しています。
ゼロの状態から新卒社員に業務を教え込む際に意思疎通がうまくいかないと、せっかくの教育カリキュラムが機能しません。一方、心地よい意思疎通ができる人であれば、教える側も気持ちよくレクチャーできます。また、仕事のレクチャーはOJTが基本です。直属の上司や先輩が一緒に仕事をしながら、現場の中でコミュニケーションを取って教えていくことからも、コミュニケーションの重要性はうなずくところでしょう。
行き過ぎた“コミュ力”重視がもたらすデメリット
しかし、時代の変化とともに日本企業にも進化が求められています。コミュニケーション能力を大切にすることが間違いだとは思いませんが、コミュニケーション能力重視が行き過ぎてしまい、ゆがんだ形で作用してしまうと、組織に大きなマイナスをもたらす原因となりえます。実際にそのような状況に陥っている日本企業は少なくありません。懸念するポイントを3つ挙げたいと思います。
(1)多様性の排除
メンバーシップ型雇用との相性の良さもあり、コミュニケーション能力重視で採用すると、必然的に組織の中の同質性は高くなります。同質性が高い企業は、家族的な一体感を生みだしやすく、マネジメントもしやすくなります。それは、日本企業の強みともいえるものでしたが、弱みにもなりえます。
面接官の主観に頼ったままコミュニケーション能力重視の姿勢を強めると、企業はより同質性の高い組織になっていきます。それは、異なる気質を持つ人にとって窮屈な環境です。社会全体が多様性を受け入れる方向に進む中で、同質性の高さが組織にとっての弱点になっていく可能性があります。
今はコロナ禍で有効求人倍率が抑えられていますが、その裏で人口は減り続けています。コロナ禍を乗り越え、再び人手不足感が強くなってきたとき、多様な人材が活躍しやすい組織であるか否かは、企業にとって死活問題になりうる重要課題です。
(2)過度な忖度体質
コミュニケーション能力重視が行き過ぎて、暗黙の了解での意思疎通を強く求める企業風土が形成されることもあります。そのような企業風土の中では、上司は何もいわなくても忖度して動いてくれる「気が利く」部下を評価します。結果、「上司ウケがいい」人ばかりが出世するようになります。採用時に“抜群”の評価を受けた“人を引きつける意思疎通ができる”人材は、コミュニケーション能力の高さだけで出世できてしまうかもしれません。
実力が伴っているのであればまだしも、ただ「上司ウケがいい」だけの人が出世できてしまう組織になり果ててしまえば、いずれ破綻することは目に見えています。
また、上司が常に正しい振る舞いをするとは限りません。良くないことだと分かっていても見て見ぬフリをしたり、間違っていることを知りつつ、上司の気持ちを推し量って後押しするような行為は、部下によるゆがんだ忖度です。そんな関係性は、不正の温床となりかねません。
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