コロナ禍の経営悪化、企業の“既往症”が影響? 2021年に向けた、マネジメントのヒントを探る:マネジメントで振り返る2020年(2/4 ページ)
コロナ禍が猛威をふるった2020年。さまざまな業界・企業が経営悪化に見舞われた。経営コンサルタントの大関暁夫は、経営悪化した企業は“既往症”が影響しているとみる。マネジメントを軸に、1年を振り返ってみよう。
エアアジアが破綻、航空業界も厳しい
コロナ禍で思いがけぬ大打撃を受けたのは、間違いなく航空業界でしょう。
世界中で航空会社の破綻や救済統合などが相次ぐ中で、国内においても中部を本拠地として国内3都市線と台湾への国際線を運営していた格安航空会社(LCC)のエアアジア・ジャパンが11月に破綻しました。LCCはそもそも、利用者が右肩上がりに増えるという見通しの下、低コスト多頻度運航で収益をあげるビジネスモデルです。航空需要の増加を前提とした収益モデルであり、予期せぬ前提条件の狂いにはなすすべがなかった、ということになるのでしょう。LCC各社は軒並み苦しい状況にあえいでおり、今後コロナ禍が長引けば淘汰・大再編の動きが慌ただしくなるのではないでしょうか。
コロナ禍が牙をむいているのは、LCCだけではありません。大手航空会社も苦境に立っています。
健全経営という意味では、コロナ以前の大手航空会社は無病息災そのものであったといえるのかもしれません。しかし、コロナ禍によって、まさかの国際線全滅状態に加えて、国内線も大幅減便を余儀なくされました。歴史的に見ても、航空市場でこれほどの需要の落ち込みは経験がなく、これまで表面化することのなかった巨大装置産業の潜在的リスクの大きさを見せつけられた形になったといえます。
JALとANA、より厳しい状況にあるのは……
国内の2大航空会社では、日本航空(JAL)よりも全日本空輸(ANA)が厳しい状況です。
ANAは、10年にJALが破綻したのをライバル逆転に向けた千載一遇の好機とみて、拡大路線へ大きく舵を切りました。具体的には国際航路の急拡大と、それに伴う旅客機投入・設備新設・人員増強の大量投資です。金融機関からの借入残高は過去最高規模に膨れ上がり、コスト負担に加え大幅に増えた返済負担は、インバウンド需要などが膨らむ中では問題なかったかもしれませんが、コロナ危機でキャッシュフローを圧迫し、思いもよらぬ経営危機に陥りました。
大幅な減便による売上激減はJALも同じですが、10年の破綻処理における債権放棄で借入が減っていたこと、経営再建によるリストラ効果で以前に比べて効率経営に移行していたことで、まだ幾分かの余裕はみられます。とはいえ、油断は禁物です。
両社とも追加借入や社債発行で急場をしのいでいますが、コロナ禍が長引き国際線の回復が遅れれば共倒れもありうる状況にはあり、ひそかに囁かれる2社の統合話も現実味を帯びて聞こえています。
航空業界のような一見「長期安定型」の業態であっても「ビジネスの闇は、いたるところにあり」ということを忘れてはいけません。過大な投資はどこまでも慎重な経営判断が肝要であるという教訓を、各社身に染みて感じているはずです。JALやANAといった大企業ですらこうした状況に陥っているわけですから、いかなる好機にあっても、「身の丈経営」を忘れないことの大切さを痛感させられます。
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