3.11上回る25倍の電気代高騰、“市場連動契約"の落とし穴:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
新電力の「市場連動型契約」に加入した世帯で電気料金が急増。ハチドリ電力では、電力価格の異常高騰分に関してはハチドリ電力側が肩代わりして負担し、ダイレクトパワーでは料金の割引に直接言及しなかったかわりに、2000円の解約手数料を無料とし、自社から顧客を切り替えるよう促している。
事態は3.11の計画停電時よりも深刻?
この度の電力不足が3.11よりもはるかに深刻であることを示すデータがある。日本卸電力取引所(JEPX)の取引データを見てみよう。「2010年4月から2013年の4月」、すなわち計画停電等が実施された「3.11近辺」と、ここ1カ月の「JEPXスポット市場」の価格推移を比較したものだ。
未曾有(みぞう)の大震災によって計画停電が実施された2011年3月から2012年初頭にかけて、大幅な電気料金の増加が確認できる。しかし、その水準は最高値で19円/kWh程度に落ち着いている。一方で、ここ1カ月のスポット市場価格の高まりはまさに“異常”というべきだ。
20年12月末までは80円/kWh程度で推移していたスポット市場価格であるが、7日に100円/kWhを超えてから一層価格上昇に弾みがついている。エリア別で見ると、直近では北海道・東北・関東が251円、その他の地域が226円で推移している。
では、なぜ計画停電という措置まで取られたはずの3.11よりも、今の電気不足は深刻になっているのだろうか。
「3分の2支える」火力発電が原因
まず、3.11近辺の価格高騰は、「原子力発電所の操業停止」によるものであったことが大きい。資源エネルギー庁によれば、震災前の電力供給シェアは火力発電が6割以上であり、原発のシェアは32%だった。
震災後は原子力発電所の稼働が相次いで停止となったものの、電力の大半を火力発電でまかなっていたこともあり、価格の上昇は限定的だった。また、被災範囲が東北を中心とした東日本エリアに限定されていたこともあって、3.11当時における電力価格の上昇は一定の水準でくい止められたのだ。
一方で、この度の電力価格高騰は、全国的な寒波の到来という事情もあるが、最大の要因は火力発電にある。日本の電力供給シェアは、現在は原子力が10%となり、自然エネルギーが26%とシェアを伸ばしている状況だが、それでもなお、総電力の3分の2近い部分を火力発電に依存している。そして、火力発電の燃料である液化天然ガス(LNG)不足が電力価格の高騰を招いているのだ。
菅義偉政権も掲げる「カーボンニュートラル」や「脱炭素社会」といったスローガンが国際的にささやかれるようになってきたことも、LNGの需要増加に拍車をかけた。LNG燃料を利用した火力発電によって排出される温室効果ガスの量は石炭の約半分と、比較的エコロジーである。これも国際的なLNG需要を押し上げた。
市場では1月末まで価格が高止まりする可能性があり、2月以降も状況によっては高い電気料金が維持されるとみられており、予断を許さない状況にある。このような状況に対して電力会社が打てる手はなかったのだろうか。
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