パワハラは減らないどころか増えている――加害者の典型的な言い訳と、決定的な「2つの見落とし」とは:見落としがちな“心のエアポケット”(1/5 ページ)
社会的な認知度が上がっても減らないパワハラ。厚労省の発表によれば、職場でのいじめや嫌がらせは、年々増えてきている。中には被害者が自ら命を絶ってしまうケースもあるが、そんな中、被害を拡大しないために見落としてはいけない“心のエアポケット”とは?
2020年6月から、職場でのパワーハラスメント(パワハラ)対策が事業主に義務付けられました。22年4月からは、中小企業にも義務付けられます。パワハラは相手に心身の苦痛を与えるだけでなく、エスカレートすると人の命を奪うことさえあります。
職場でのパワハラ対策が義務付けられてから約半年後の20年12月19日には、「大阪メトロ社員自殺、上司が丸刈り強要「死ね」暴言も」(朝日新聞)というパワハラ事例に関する記事が話題になりました。
職場でのパワハラ対策義務化の根拠となっている労働施策総合推進法の条文第30条の2には、次のようにあります。
「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」
もし、大阪メトロの社内で起こっていたことが記事の通りだとすると、(1)「優越的な関係が背景」→職場の上司と部下、(2)「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」→“死んでまえ”などの暴言や丸刈りの指示、(3)「就業環境が害される」→上司からボロクソに言われてしまう環境、などに合致することから、明らかなパワハラです。亡くなったご本人はもちろん、遺族の方々のご心痛は察するに余りあるものがあります。
パワハラをしていた上司としては、命を奪おうとまでは思っていなかったのかもしれません。もし命を奪うために追い込んでいたのだとしたら、労災どころか殺人罪に問われるべきです。しかし、仮に上司にその気はなかったとしても、パワハラが命に関わる事態にまで進展してしまうケースはありえます。そして残念なことに、今も日本中の職場でパワハラは発生しています。
減らないどころか、増えている「いじめ・嫌がらせ」
厚生労働省が発表した「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争相談の中で最も多いのは「いじめ・嫌がらせ」で8万7570件。相談件数の推移を見ると、年々顕著に増えていることが分かります。
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