「一律賃上げは非現実的」 経団連が弱音を吐き、かつての「勝ちパターン」も崩壊した今、働き手はどうするべきか:春闘にも限界(3/4 ページ)
春闘が開始も、経団連は「一律賃上げは非現実的」と方針を示した。過去には終身雇用の維持にも厳しい姿勢を見せて波紋を呼んだ。過去の標準的勝ちパターンが崩壊しつつある今、働き手は希望を叶えるためにどうするべきか。
以前、「『週休3日』『副業容認』は各社各様 “柔軟な働き方”を手放しで喜べないワケ」という記事でも触れたように、経団連の中西会長は、終身雇用という仕組みが制度疲労を起こしていると訴えました。
終身雇用の考え方は、言い換えれば社員の生活を生涯にわたって企業が守るということです。しかし、経済環境の急激な変化やグローバル化による市場環境の激化が進み、雇用を守り続けることが難しくなっているのは事実です。それが難しいとなると、俗に正社員と呼ばれる働き方で就職すれば終身雇用で生涯安泰、という標準的勝ちパターンは成立しなくなります。
結婚を機に退職することを寿退社と言いますが、寿退社して専業主婦として生きていく女性はかつて「永久就職した」といわれました。それが一般的だったころを古き良き時代と見るか否かは人それぞれですが、夫が正社員として終身雇用されるのとセットで、当時の女性にとっては標準的勝ちパターンだと思われていた面がありました。
そんな、「夫は終身雇用・妻は永久就職」という組み合わせが標準的勝ちパターンと思われていた時代は、企業側の弱体化に伴い終わりつつあると誰もが感じていると思います。女性の意識も大きく変わりました。女性活躍推進が国の政策となり、少しずつではありますが女性管理職の比率も増えてきています。昨年、私が所属するしゅふJOB総研で、仕事と家庭の両立を希望する働く主婦層に対し、10年後の夫婦のワークスタイルはどうなっていると思うか調査したところ、「夫婦対等に共働き」が増えると回答した人が6割超に及びました。
そこで飛び出た経団連会長の発言は、標準的勝ちパターンが成立した時代の終わりを決定づける最終宣告だったと言えます。
コロナ禍でさらに加速した価値観の多様化
標準的勝ちパターンが失われつつある要因といえる労働者側のもう一つの意識変化は、価値観の加速度的な多様化です。
先ほど事例として出したAさんとBさんは、賃金重視と休暇重視というざっくりとした違いを抱えている2人でした。しかし、ひとえに賃金重視といっても、「できれば成果報酬型で桁違いの賃金を得たい」と考える人もいれば、「年俸制で安定的かつ一定水準以上の賃金を得たい」と希望する人もいます。当然ながら休暇重視の人でも、「まとまった長期間の休みを取りたい」という人もいれば、「自分が休みたいときに自由に休みたい」と望む人もいるでしょう。
こうした違いは、今でこそ価値観の多様化という文脈で肯定的に受け入れられる雰囲気ができてきましたが、終身雇用が標準的勝ちパターンとして成立していた時代には、単なるわがままと受け取られがちでした。遅く出勤したり、退社時間を早めたり、仕事を休んだりすることには、ある種の後ろめたさが付きまといました。「すみません。用事があるのでお先に失礼します」と、まくら言葉に「すみません」をつけるのが当然といった具合です。
今でも「すみません」文化は多くの職場で見られますが、その根本的な要因は退社時間を早めたり仕事を休んだりすることで職場に何らかのしわ寄せがいってしまうという業務設計上の問題です。業務設計上の問題をクリアしない限り、仕事を休んだりすることへの後ろめたさが完全に消えることはないと思います。
しかし、労働者の意識は業務設計の改善や職場改革を待たずに、どんどん進化していきます。価値観多様化の流れは以前からありましたが、その流れが加速した大きなきっかけの一つがコロナ禍です。
関連記事
- パワハラは減らないどころか増えている――加害者の典型的な言い訳と、決定的な「2つの見落とし」とは
社会的な認知度が上がっても減らないパワハラ。厚労省の発表によれば、職場でのいじめや嫌がらせは、年々増えてきている。中には被害者が自ら命を絶ってしまうケースもあるが、そんな中、被害を拡大しないために見落としてはいけない“心のエアポケット”とは? - もはや時代遅れ? 今こそ日本企業は“コミュ力”信仰から脱却すべきワケ
経団連が発表した教育界への提言が、波紋を呼んだ。経済界が教育界へ提言をする一方で、経済界も変わる必要が求められているといえる。その一丁目一番地は、“コミュ力”信仰かもしれない。 - 上から目線? 経団連が発表した「教育界への提言」が、経済界へのブーメランなワケ
経団連が発表した教育界への提言は“喝”ともいえる内容で、至極まっとうなことをまとめている。その一方で、何となく違和感を覚える理由はどこにあるのか。 - 日本中に“隠れ無惨”上司がいる! 鬼舞辻無惨のパワハラを笑えないワケ
人気漫画『鬼滅の刃』で、鬼たちの「パワハラ会議」が話題となった。ネタとして消費されているが、日本企業も笑っていられないのではないだろうか。 - 「週休3日」「副業容認」は各社各様 “柔軟な働き方”を手放しで喜べないワケ
新型コロナを受けて大手企業でも「週休3日制」や「副業容認」が進む。これまでもいくつかの企業はこうした働き方を柔軟にする制度を導入してきたが、個々の会社によって運用方式は違う。それぞれの違いを見逃さないために抑えておくべき、「3つの変化」とは。 - オリエンタルランド「ダンサー配置転換」の衝撃――非正規社員を“犠牲者”にしないために、いま求められるものとは?
一部報道によると、オリエンタルランドがダンサーなどの配置転換を行う。不景気時には真っ先に「調整弁」となる非正規雇用だが、“犠牲者”にしないために必要なものとは? - 社員に「何か手伝うことはないですか?」と言わせる会社が時代に合わなくなっていくと思える、これだけの理由
若手社員にありがちな、定時後の「何かやることありますか?」という伺い立て。日本企業は個々の役割分担があいまいだからこそ、こうした「職場第一主義」的ななりふりが求められてきた。しかし、時代の変化によって、こうした職場第一主義から抜け出す必要が生じてきている。 - 増えるストレス、見えた希望――コロナショックを機に、働き手の“反乱”が始まる?
新型コロナウイルスの感染拡大を機に、働き手の意識が変わった。テレワークも浸透し、仕事よりも生活を重視する層が増えている。一方、企業の腰は重く、働き手との「意識の差」がどんどん開くかもしれない。このままいけば、抑圧されていた働き手の反乱が始まる可能性がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.