寮発祥のドーミーインが「大浴場」をどんどん展開するワケ 手掛ける「和風ビジネスホテル」とは?:瀧澤信秋「ホテルの深層」(4/5 ページ)
「宿泊施設のカテゴリーボーダーレス化」が進んでいるが、ドーミーインのサブブランド「御宿 野乃」もそのひとつだろう。
ドーミーインが注力する大浴場へのこだわり
ドーミーインといえば大浴場というイメージを持つ人は多いだろう。ほとんどの施設が天然温泉という徹底ぶりであるが、露天風呂をはじめ、最近のブームもあってサウナや水風呂などもファンの心をつかんでいる。施設名も特徴があって、最北端である北海道稚内市のドーミーインは「天北の湯 ドーミーイン稚内天然温泉」、東北・仙台には「天然温泉 萩の湯 ドーミーイン仙台駅前」というように“○○の湯”を冠する。
また、天然温泉の施設は“天然温泉”との表記がなされているので、大浴場を持つ施設や天然温泉を楽しめる施設も一目瞭然である。天然温泉でいえば、その場でボーリングをして1000、2000メートルと掘削する自家源泉をはじめ、施設によっては温泉地から運んでくる運び湯もある(天然温泉との表記可)。
一方、若干ではあるが諸事情により天然温泉のない施設もある。その場合は“人工温泉”と表記し、機器の設置すらも厳しい施設は、ハーブなど用いた“変わり湯”などを導入している。天然温泉・大浴場が基本というブランドだけに、ブランディングと温浴条件の一貫性への努力も垣間見える。
また、浴場の特徴として多くの店舗で、内湯:天然温泉/露天風呂:さら湯(浄水)と区分している。露天風呂は温泉ではないが、果実湯を用いる例など季節感もある演出がみられる。これらの研究も相当で、例えば「りんごに何カ所穴を空けると香りが効果的に出るか」といった視点も生かされているという。
大浴場では、脱衣所の清潔感確保も重要だ。完璧とまでいかないのはどのホテルも同じであるが、パウダーコーナーのほこり、髪の毛、床の水滴などへの巡回対策にも力を入れる。一方で、ドーミーインに限らないが、宿泊施設の大浴場でのマナー問題は事業者の頭を悩ますところだ。コロナ禍以前は、激増していた訪日外国人へのマナー徹底が課題になっていた。これは外国人に限らず、日本人といえども、例えば、サウナ後に汗を流さず水風呂を利用するシーンを筆者自身みかけることもあり、大浴場をウリにするホテル運営会社ならではのマナーについての悩みは尽きないといったところか。
ところで、ドーミーインはパウダーコーナーや大浴場も含め、店舗間のデザインに均一感がある。冒頭で紹介した御宿 野乃はまさしく和がテーマであるが、そもそもドーミーインそのものが温泉にフィーチャーしていることから、基本的に和をテーマとした設えになっている。浴場には、木・タイル・岩などを自然の素材を効果的に用いつつもスタイリッシュに仕上げており、照明の演出など雰囲気作りへの気遣いも秀逸。一方でこうしたコンセプトの裏側には実に多くの努力がみられる。
例えば、ビジネス客と観光客の割合などを鑑みつつ施設のレイアウトプランを作成。広さ、露天風呂からの眺望など、地方店舗との差がある都市部の店舗は、より非日常空間を演出するといった雰囲気作りも重視し、郊外や都市部などの立地条件にも着目している。
また、パウダーコーナーなど浴室設備の配置や動線への気遣いも秀逸で、使いやすさにも定評がある。シャワーの水圧、サウナや水風呂の温度など、全国で統一して徹底管理し、店舗間クオリティーの堅持も重要テーマとしている。とにもかくにも開発部門と事業部門で綿密な打ち合わせがなされ実現しているという。とはいえ、ブランディングでいえば、新規開業店舗と既存店舗(特に経年店舗)との差を指摘するゲストの声もある。仕方ない点ではあるが、事業の拡大と共に今後の課題となっていくだろう。
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