水害被害を“リモート”で推測 小型衛星で日本進出したフィンランド「ICEYE」の可能性:世界初(3/5 ページ)
8月は豪雨による被害が多かったが、現地の被害状況把握に役立てられている新技術がある。フィンランドを拠点とする宇宙ベンチャー「ICEYE」は、自社で開発した小型人工衛星により地表を撮影、そのデータをもとにタイムリーな被害推定データを保険会社に提供している。
保険業界にデータを提供し、被害認定の迅速化へ
アイサイの民間企業向けのサービスは、現在、保険業界に特化して提供されている。主に豪雨による災害リスクを常時SAR衛星でモニタリングし、大雨が降った際は画像撮影から24時間以内に「浸水のエリア」と「想定される浸水の深さ」の情報を、保険会社へ提供する。
「このデータを利用することで、豪雨災害の全体像をタイムリーに把握し、災害対策本部の設置や担当人員整備など緊急的なアクションにつなげることができます。さらに、特定の建物や家屋に焦点を当てたミクロの浸水高の推定も可能です。これにより、現場立ち会いを省略して、被災者への保険金支払いの迅速化に役立つと考えています」
このアイサイのソリューションは、すでに日本で本格導入されている。20年12月、東京海上日動火災保険(以下:東京海上日動)は、水害被害の迅速な保険金支払いを目的に、アイサイ、パスコ、三菱電機との協業を発表。
SAR衛星画像の高度な解析技術を持つアイサイ、可視光画像(※)をはじめとした情報による総合的被災判読に強みを持つパスコ、SAR衛星開発の知見を活用した画像解析技術を持つ三菱電機との協業により、水害が発生した際に、各社のネットワークからさまざまな種類の人工衛星画像を取得、AIを用いて分析し、水害被害の把握に役立てるとした。
今回、東京海上日動へもコメントを求めたが、残念ながら取材は実現しなかった。しかし、朝日新聞の報道によれば、東京海上日動では7月に発生した熱海の土石流災害の際、1週間足らずで、被災住宅の契約者へ保険金を全額払う「全損」を5件認定したという。これまでは、同様の被害の際、保険金の支払いまでに平均2〜3週間ほどを要していたというから、2分の1、あるいは3分の1の大幅な迅速化といえる。
アイサイでは、保険業界に特化したこのソリューションを日本を含めた各国で展開。さらに、同様の技術を使って台風などの風災・地震・山火事の被害状況の把握、地盤沈下・土砂崩れの予兆検知の実証実験も行っているそうだ。
「現在、世界各地で頻発している山火事の影響で、グローバルでは山火事に対するソリューションの要望が高まっています。地盤沈下、土砂崩れの予測については、毎日、定点で観測することで数センチ単位の微妙な差異も検知でき、精度の高い予測が期待されます」
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