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経済安全保障の重要性を早くから指摘 気鋭の経済ジャーナリストに「米中経済戦争」による日本企業への影響を聞いたサイバースパイが日本を破壊する【前編】(2/4 ページ)

岸田文雄新内閣では新たに「経済安全保障」を担当する閣僚ポストが新設される。経済安全保障の重要性を指摘してきたのが経済ジャーナリストの井上久男氏だ。井上氏インタビューの前編では中国が進める「軍民融合」の実態と、中国企業による楽天への出資について聞いた。

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中国が進める「軍民融合」

 井上氏は自動車産業の取材で、コロナ禍前の19年まで頻繁に中国を訪れていた。中国は15年に産業政策「中国製造2025」を発表。25年までを第一段階として、次世代情報技術や新エネルギー車など10の重点分野と23の品目を設定し、製造強国になる戦略を掲げている。

 中でも産業用ロボットに関しては、職人芸の技をソフトウェアに変換する日本の考え方とは異なり、3Dの映像によって技を落とし込むなど、職人芸がなくても対応できる新たな発想でものづくりを進めているという。

 「ロボットや工作機械、いわゆるマザーマシンは中国が技術力をつけていて、新しいことができるロボットをどんどん作っています。マザーマシンは武器を製造する技術でもありますから、米国が警戒するのは当然でしょう」

 中国の産業政策には重要な戦略がある。それが「軍民融合」だ。これまで軍事技術は政府の予算によって開発され、それが民間に転用される「軍民転換」を経て広く使われるようになっていた。米国の軍事技術が民間転用された一例がインターネットだ。

 それが現在では、新しい通信規格の5Gなどの民間技術が、同時並行で軍事技術にも使われるようになっている。このような軍事技術と経済の発展を結び付ける「軍民融合」を、中国は国家戦略として位置付けた。

 「技術革新の流れが速いことも影響して、優れた民間の技術をいかに奪うかが中国の軍民融合の戦略になっています。さらに、非軍事領域における軍事活動を強化することも宣言しています。サイバー攻撃も非軍事領域における軍事活動でしょう」

 中国は今や新興国から経済大国へと成長した。「中国製造2025」や「軍民融合」以外にも、中国と欧州(ヨーロッパ)を陸路と海路で結ぶ「一帯一路」や、自らが提唱するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の活動を推進して世界に台頭している。

 それまで世界を支配していた米国にとっては、中国を何とか押さえつけたい。その動きの1つといえるのが米国内の通信会社からの中国・華為技術(ファーウェイ)製品の排除だ。井上氏は米中の対立を、17世紀から18世紀にかけての英蘭戦争に例える。

 「当時世界の海を支配していた英国(イギリス)が、新しい海洋国家として台頭したオランダを脅威に感じて、イギリス籍の船であるなど一定の条件を満たさなければ航海できない航海条例を制定して抑えつけようとしました。それにオランダが応じないことで英蘭戦争に発展しました。

 今の米国と中国は、英蘭戦争の状態と似ていると思います。ファーウェイの排除や、中国製のものを使わせないクリーンネットワーク戦略は、21世紀の航海条例ではないでしょうか」


米国が中国を押さえつける動きの1つが米国内の通信会社からの「ファーウェイ排除」だ

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