日本のクラウンから世界のクラウンに その戦略を解剖する(2):池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/7 ページ)
1955年のデビュー以来67年15世代に渡って、クラウンは日本国内専用モデルであり続けた。しかし国内のセダンマーケットはシュリンクの一途をたどっている。早晩「車種を開発生産していくコスト」を、国内販売だけで回収することは不可能になる。どうしてもクラウンを存続させていこうとすれば、もっと大きな世界のマーケットで売るしか出口がない。
豊田章男社長のクラウンにかける想い
今回のグローバル化について、豊田章男社長はワールドプレミアのスピーチの中でこう述べている。少し長いが抜粋する。
いつの時代も、クラウンが目指してきたものは、「幸せの量産」だったと思います。
クラウンは、日本の豊かさ、「ジャパンプライド」の象徴でした。そして、世界に誇る日本の技術と人財を結集したクルマでした。新型クラウンにも、そんな日本の底力が詰まっております。
だからこそ、このクルマで、私たちはもう一度、世界に挑戦いたします。
新型クラウンは、約40の国と地域で販売してまいります。シリーズの販売台数は、年間20万台規模を見込んでおります。
クラウンが、世界中の人々に愛されることで、日本がもう一度、元気を取り戻すことにつながれば、こんなに嬉しいことはありません。
「日本のクラウン、ここにあり」。それを世界に示したいと思っております。
最後に、世界のお客様へ、メッセージをお伝えしたいと思います。
I'm so excited to announce today… that this new Crown family of vehicles will be offered…not just in Japan… but globally…. for the very first time.
(本日皆様に、このニュースをお届けできることを大変楽しみにしてまいりました。新型クラウンシリーズは、日本だけではなく、初めて、グローバルに販売してまいります。)
Customers from around the world will now get a chance to drive this historic Japanese nameplate… born out of passion, pride, and progress.
(日本の情熱、プライド、発展が生み出した歴史あるクルマに、世界中のお客様がお乗りいただけるようになります。)
A car that could very well be… our crowning achievement!
(このクルマはきっと、クラウンの「最高傑作」になると思っております!)
皆様、「日本のクラウン」の新しい未来に、ご期待ください。本日は、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
いかがだろうか? スピーチなので、都合の悪いことは言っていない。「国内専用のままでは生き残れない」という厳しい現状は、流石に正直には吐露(とろ)していないが、おそらくはもう一方で、「『日本のクラウン、ここにあり』。それを世界に示したいと思っております」という部分もまた、本音であると思う。
そうでなければ、一度に4台もまとめて発表したりしない。負け戦と決まった撤退戦に巨額の投資をする経営者はいない。そういう意味で「攻撃こそ最大の防御」を地でいく攻めの戦略をトヨタは遂行しようとしている。もちろんそれがうまくいく保証があるわけではない。しかしそもそも世の中に絶対うまくいく保証のあるビジネスなどは存在しないのだから、やってみる体力があるならやってみるしかない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
セダンの再発明に挑むクラウン(1)
クルマの業界ではいま、クラウンの話題で持ちきりである。何でこんなにクラウンが注目されているのかだ。やっぱり一番デカいのは「ついにクラウンがセダンを止める」という点だろう。
なぜ、そうまでしてクラウンを残したいのか?(3)
それほどの大仕掛けをしてまで、果たしてクラウンを残す意味があるのかと思う人もいるだろう。今回のクロスオーバーを否定的に捉える人の中には、「伝統的なセダン、クラウンらしいクラウンが売れないのなら、潔く打ち切ればいい。クラウンとは思えないクルマに無理矢理クラウンを名乗らせて延命する意味はない」という声も少なからずあった。
SUVが売れる理由、セダンが売れない理由
セダンが売れない。一部の新興国を除いてすでに世界的な潮流になっているが、最初にセダンの没落が始まったのは多分日本だ。そしてセダンに代わったミニバンのマーケットを、現在侵食しているのはSUVだ。
見違えるほどのクラウン、吠える豊田章男自工会会長
2018年の「週刊モータージャーナル」の記事本数は62本。アクセスランキングトップ10になったのは何か? さらにトップ3を抜粋して解説を加える。
え!? これクラウンだよな?
トヨタのクラウンが劇的な進化を遂げた。今まで「国産車は走りの面でレベルが低い」とBMWを買っていた人にとっては、コストパフォーマンスがはるかに高いスポーツセダンの選択肢になる可能性が十分にあるのだ。
プレミアムって何だ? レクサスブランドについて考える
すでに昨年のことになるが、レクサスの新型NXに試乗してきた。レクサスは言うまでもなく、トヨタのプレミアムブランドである。そもそもプレミアムとは何か? 非常に聞こえが悪いのだが「中身以上の値段で売る」ことこそがプレミアムである。
トヨタはプレミアムビジネスというものが全く分かっていない(後編)
前回はGRMNヤリスがどうスゴいのかと、叩き売り同然のバーゲンプライスであることを書いた。そして「販売のトヨタ」ともあろうものが、売る方において全く無策ではないか? ということもだ。ということで、後半ではトヨタはGRMNヤリスをどう売るべきだったのかを書いていきたい。
