なぜ、そうまでしてクラウンを残したいのか?(3):池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
それほどの大仕掛けをしてまで、果たしてクラウンを残す意味があるのかと思う人もいるだろう。今回のクロスオーバーを否定的に捉える人の中には、「伝統的なセダン、クラウンらしいクラウンが売れないのなら、潔く打ち切ればいい。クラウンとは思えないクルマに無理矢理クラウンを名乗らせて延命する意味はない」という声も少なからずあった。
歴代開発陣の「オレのクラウン論」
ワールドプレミアで豊田社長に続いて登壇したミッドサイズビークルカンパニーの中嶋裕樹プレジデントは、こう語った。
2年と数カ月前のことですが、まず私が手掛けたのは、現在走っているクラウンのマイナーチェンジでした。社長の豊田にその企画を見せたとき、こう言われました。
「本当にこれでクラウンが進化できるのか? マイナーチェンジは飛ばしてもよいので、もっと本気で考えてみないか」
今思えば、ここから16代目のクラウンの開発がスタートしたと思います。
中島氏は、これに続く質疑応答の中で、スピーチ用に若干美しい話になっていたけれど、「本当はマイナーチェンジプランを持って行った時はボロクソに言われました」と明かしている。
要するに、今のクラウンを流れ作業で次へつなぐ作業など無意味だと、失敗はあるのだから、だったらさっさと認めて次に行くべきだということを、かなり厳しく言われたらしい。
この話をしていると、15代目のクラウンが失敗作だという話になって、あまりに不憫(ふびん)なので、そのあたりも少し書いておこう。トヨタの社内では、クラウンの主査になることは要するにトヨタのトップガンだと認められることであり、エンジニア最大の名誉のひとつであり、役員への登竜門でもある。別にルール化されているわけでもなんでもないが、あちこちで尋ねてみると、どうも通例的にはそういうことだ。
おそらく非公式なものだと思うが、クラウンには歴代主査の会があるのだという。会社に多大な功績を残したOBがきら星のごとく集まるそれは、どうしたって力を持ってしまう。現在の役員達が小僧として仕えた先輩エンジニアや、そのさらに上の世代が営々と連なっているのだから、人の社会の構造としてそれは避けられない。誰だって頭が上がらない人はいるのだ。そういうものに干渉されない人がいるとすれば、それは唯一創業家の御曹司だけだろう。
加えて、大名跡であるクラウンは、トヨタの社内の他部門からの干渉も多い。それぞれが良かれと思って言っているところがよりたちが悪い。そのあたり、クラウンの宿命なのかもしれない。記事のコメント欄を見ても、多くの人々が「オレのクラウン論」を語らずにはいられないようで、多くの人の「クラウン愛」がそうさせるのだろう。もちろんそれらは、期待の表れでもある。しかし作る当人でもない人たちからああしろこうしろの圧力の中で、「革新を断行せよ」といわれても、典型的に舟が山に登るパターンになる。
15代目は、大変革を求められたが故におそらく摩擦は多かった。各所から干渉が入る力学構造の中で、必ずしも主査の思うようにはならず、製品としてあの形で着地した。販売的には確かに失敗だったかもしれないが、15代目の失敗があったからこそ、口出しした人たちがこれ以上ものを言えなくなり、16代目は、超攻撃的なモデルチェンジができたのだと筆者は思っている。この16代目が成功したとき、だから15代目は実は陰の功労者なのである。
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