なぜ、そうまでしてクラウンを残したいのか?(3):池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
それほどの大仕掛けをしてまで、果たしてクラウンを残す意味があるのかと思う人もいるだろう。今回のクロスオーバーを否定的に捉える人の中には、「伝統的なセダン、クラウンらしいクラウンが売れないのなら、潔く打ち切ればいい。クラウンとは思えないクルマに無理矢理クラウンを名乗らせて延命する意味はない」という声も少なからずあった。
主査は4台のクルマをたった1人でまとめた
筆者は、ワールドプレミアの現場レポートでテレビ番組に生出演したのだが、その打ち合わせで、スタッフから質問された。「4台もいっぺんに開発するなんていったいいくら掛かったんでしょう? 金額が分かれば今回のクラウンに賭けるトヨタの意気込みみたいなものが伝えられますよね」
なるほど、と筆者は思った。ただしスタッフとちょっと意味が違う。トヨタはここ数年、モデルベース開発(MBD)とTNGAで、車両開発のコストを大幅に下げている。車両開発には、下手すると1台が億円単位になる試作車が何台も必要だったのだが、それらを作らずに済むシミュレーション設計は、当然大幅なコストダウンを実現する。それが直近の決算の高利益の大きな理由の1つになっていることは、近健太CFOに直接取材して知っている。
つまり、今回クラウンが4台のモデルを並べて、群で戦う戦略が取れたのは、MBDとTNGAで開発費も人的リソースもグッと絞って開発できたからなのではないだろうか? そもそも皿田明弘主査(チーフエンジニア)が4台のクルマをたった1人でまとめたことはすでに聞き及んでいる。
後で幹部のひとりにこっそり聞いてみたところ、彼はわざわざ調べて教えてくれた。具体的な数字は書かないでと頼まれたので、それは書かないが、4台のクラウンを作って掛かったコストは2台分に満たなかったそうだ。
以上で、短期連載を終了する。新しいハイブリッドシステムなど、まだネタが枯れたわけではないのだが、遠からずクラウン・クロスオーバーの試乗会があるだろう。そこで技術的な面をしっかり追加取材して、試乗記とともにお届けしたいと思う。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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