日の丸半導体「ラピダス」の勝算 “周回遅れの惨状”から挑む「最後のチャンス」:人材の確保がカギ(4/5 ページ)
政府は、経済産業省が中心となり欧米との国際連携を軸に次世代半導体の量産する新会社「ラピダス」と、研究開発拠点である技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)をセットにした半導体産業の復活を掲げる基本戦略構想を打ち出した。
「TSMCの後は追わない」
「ラピダス」の社長に就任した小池淳義社長は、日立製作所などを経てサンディスク社長、ウエスタンデジタルジャパンのプレジデントなどを歴任してきた人物だ。
小池社長は基本的な方針として「TSMCの後は追わない、同じ土俵で勝負しない」と話している。汎用タイプの半導体を大量に生産するのではなく、「ラピダス」に出資してくれた企業が欲しがっているカスタムメイドの半導体を少量多品種で量産したい方針だ。
しかし、今の日本の技術水準では、半導体の回路幅が30〜40ナノレベルのものしか作れないといわれている。「ラピダス」ではこれを一気に2ナノの最先端半導体の量産を目指している。果たして、一足飛びでその水準までレベルアップができるかどうかも気になるところだ。
杉山氏は「世界の技術水準に追い付くためには、最先端レベルまで追い付かなければ、半導体業界では戦っていけない」と指摘する。
一方で、「チップレット」と呼ばれる、1つのチップの中に1種類の半導体ではなく、複数の半導体を搭載させて効率の良いチップを作る新しい技術トレンドの製品が展開されてきている。この製法が「ラピダス」の製造過程で実用化できれば、利用者のニーズにあった半導体を量産できるようになるため、可能性が広がるとみられている。
「存在感増す日本」
日本の半導体自体のシェアは落ち込んでいる。その一方で半導体製造装置や半導体材料では日本のシェアは高く、杉山氏はこう指摘する。
「製造装置や材料に強い日本と組まなければ最先端の半導体もできないため、実はいま、世界の半導体業界で日本の存在感が増してきている。今回の同省が、ラピダスを含む次世代半導体構想を発表したことについて海外の専門家は驚いている。『日本は半導体で何をしようとしているのか』などの問い合わせが相次いでいる」
半導体の生産能力のシェアを見ると、韓国が21%、台湾が20%、中国が19%、日本が19%、米国が11%だ。アジア地域での製造能力は大きいが、今後は経済安全保障の視点から自国内で半導体サプライチェーンを確保しようと、生産設備の自国回帰の傾向がみられるという。
一方で半導体製造装置の供給メーカーをオーナーシップ別にみると、米国が38%、日本が32%と、日米が断トツのシェアをキープしている。日本メーカーでは東京エレクトロン、アドバンテスト、SCREENなどがある。今後は韓国や中国がシェアを高めるだろうが、それには相当な時間が必要だと分析している。
また半導体ウエハーなど半導体材料市場では日本は56%を占めて圧倒的に強い分野を堅持している。代表的なのが半導体のシリコンウエハーで世界首位の信越化学工業だ。
半導体を効率的に製造するためには、こうした材料メーカー、製造装置メーカーの協力が不可欠だった。そのため、この分野のシェアの高い日本の存在感が増してきているといえるわけだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ワークマン、着るコタツが“爆売れ”で「年内にはなくなる」 背景に電気代の高騰
ワークマンの「着るコタツ」ことヒーターウェア「WindCore ヒーターシリーズ」の売れ行きが好調だ。担当者によれば「毎年年内には売り切れる」という人気の商品だが、今年も“爆売れ”の状態で、背景には電気代の高騰があると話している。
「年商1億円企業の社長」の給料はどれくらい?
「年商1億円企業」の社長はどのくらいの給料をもらっているのか?
富士通・時田隆仁社長に聞く「年収3500万円」の運用状況 みずほシステム障害への対応は?
富士通の時田隆仁社長に、今後の事業展開の方向性を聞いた。
富士通「年収3500万円」の衝撃 ソニー、NECも戦々恐々の「グローバル採用競争」
「富士通3500万円」「NTTコム3000万円」「ソニー1100万円以上」「NEC新卒年収1000万円」――。優秀な人材を獲得するためにカネに糸目をつけず施策を展開する各社の危機感と焦燥。繰り広げられる採用“狂騒曲”の本質に迫った。
NEC森田社長に聞く「新卒年収1000万円施策」の効果 魅力的な職場を作ることこそマネジャーの仕事
NECは顔認証に代表されるように世界でも有数の認証技術を持っている。加えて月や火星探査などの宇宙開発など夢のある技術開発に長年注力してきた。今後の展望を森田隆之社長に聞いた。
上場企業の「想定時給」ランキング、3位三井物産、2位三菱商事 8000円超えで「ぶっちぎり1位」になったのは?
上場企業の「想定時給」ランキング……。3位三井物産、2位三菱商事に続き「ぶっちぎり1位」になったのは?
「この企業に勤める人と結婚したい」ランキング トヨタ自動車、任天堂をおさえての1位は?
「この企業に勤める人と結婚したいランキング調査」。1位は「地方公務員」(28.6%)だった。
NEC「新卒年収1000万円」の衝撃 年功序列の廃止か、「3流国への没落」か
NEC、ソニー、NTTコミュニケーションズ、DeNA、富士通……。高い報酬を払ってでも新卒の優秀な技術者を採用したいという機運が高まってきた。年功序列に縛られた日本企業は果たして変われるのだろうか?
