トヨタは佐藤社長体制で何がどう変わるのか:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
佐藤恒治社長の新体制で初の方針説明会を実施したトヨタ自動車。「2026年までに10種の新EVを投入」が大きく報じられているが、それは大きな絵柄の中のごく一部にすぎない。説明会で語られたのは……。
トヨタが描く電動化戦略
さて、ここまでが全体的な話で、ここから各論に入っていく。まずは電動化戦略について、これまでの成果を表したのが図6だ。2250万台と書かれているのはHEV(ハイブリッド車)の累計販売台数である。
これをBEV(バッテリー電気自動車)に換算すると、約750万台に当たるとトヨタは主張しており、電動化プログラムの中でそれだけのCO2削減を達成してきたことを述べている。まあ「敵はCO2」とするならば妥当な主張だと思うが、「CO2をどれだけ減らしたかは関係ない。とにかくBEVをどれだけ売ったかが全て」と主張する人には通じそうもない説明である。
では、BEVをどうやって増やしていくかを説明するのが図7と図8になる。プリウスの発売以来25年で、HEVの原価を6分の1に低下させ、ついにガソリン車の利益を超えたことが示されている。BEVの事業的可能性を見た時、現実的な話として中国系のメーカーは国からの多額の補助金が入っているので評価のしようがない現状を考慮すれば、きちんと利益を上げているのは世界でテスラだけである。
トヨタがBEVのラインアップを増やした際に、テスラ同様黒字になると考えるのはあまりにもご都合主義である。常識的にはBEVに取り組んでいる各メーカー同様、BEV事業は赤字になると考えるのが妥当なので、そのBEVの赤字対策は終わったよ。ということをこの資料は説明している。底が抜けたザルのように赤字が出ても維持できる体制をHEVの利益率向上によって確保したということになる。トヨタはもう少しBEV事業で儲かる会社が増えてから参入したかったのだが、腹を括って「大出血我慢比べ」に参入する覚悟をした。そういう戦い方になるBEV事業を始めるに当たって、まずは滑落防止のザイルを用意したことを示すのがこの図である。
というところから先は個別の製品戦略の話に移るので、中嶋副社長のプレゼンになるのだが、その前に佐藤社長のプレゼンのまとめ部分をちゃちゃっとやってしまおう。
図9は、各地域別のパワートレイン構成比だ。国によって比率は大きく違う。単純にBEVを抜き出せば、ドイツは17%、中国は18%、米国は5%、インドネシアは1%。インドネシアに「ドイツの事情に合わせろ」と言っても無理だし、ドイツに「米国の事情に合わせろ」と言っても無理だ。それぞれのマーケットでクルマの使われ方も、経済的な豊かさも、インフラ事情も違う。だから地域ごとにパワートレインも異なるし、そもそもBEVに求められるスペックも違うはずだ。
というわけで結論として図10が示される。これから2050年までの26年間を見通せば、図9の比率はどんどん変わっていく。その全てに対応するためにはマルチパスウェイが必要であるという結論になる。そういう意味ではトヨタの結論は豊田社長時代と何も変わってないといえるし、それこそが継承になる。
関連記事
- トヨタはどこへ進むのか 新体制の行方
トヨタ自動車の社長交代で、新体制はどうなるのか。佐藤次期社長の会見内容やこれまでトヨタが行ってきた実績を振り返りながら、筆者なりの予想を立ててみる。 - 豊田章男社長を取材し続けた筆者が思う、退任の本当の理由
トヨタ自動車の豊田章男社長が、退任を発表した。ここ数年、豊田社長を追いかけてきた筆者から見たさまざまなこぼれ話を書いていこう。 筆者が思う、退任の本当の理由は……。 - トヨタは日本を諦めつつある 豊田章男社長のメッセージ
日本の自動車業界は今後どうなるのか。タイトヨタの設立60周年記念式典、およびトヨタとCPグループとの提携に関する発表から、未来を展望する。 - なぜプリウスは“大変身”したのか トヨタが狙う世界市場での逆転策
トヨタが新型プリウスを発表した。発売はまだ先なので、車両の詳細なスペックなどは分からないものの、その変貌ぶりが話題になっている。それにしても、なぜトヨタはこのタイミングで発表したのか。背景にあるのは……。 - マツダCX-60は3.3Lもあるのに、なぜ驚異の燃費を叩き出すのか
マツダCX-60の販売状況が、なかなか好調のようだ。人気が高いのはディーゼルのマイルドハイブリッドと純ディーゼルで、どちらも3.3Lの直列6気筒エンジンを搭載している。それにしても、3.3Lもあるのに、なぜ燃費がよいのだろうか。 - なぜ「プリウス」はボコボコに叩かれるのか 「暴走老人」のアイコンになる日
またしても、「暴走老人」による犠牲者が出てしまった。二度とこのような悲劇が起きないことを願うばかりだが、筆者の窪田氏は違うことに注目している。「プリウスバッシング」だ。どういう意味かというと……。 - 次の「新幹線」はどこか 計画をまとめると“本命”が見えてきた?
西九州新幹線開業、北陸新幹線敦賀延伸の開業時期が近づいている。そこで今回は、新幹線基本計画路線の現在の動きをまとめてみた。新幹線の構想は各県にあるが、計画は「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」として告示されている。これと費用便益比、各地のロビー活動の現状などから、今後を占ってみたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.