Apple銀行「金利4%超」の衝撃 GoogleやLINEも失敗した銀行参入、なぜ強気で臨むのか:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/3 ページ)
米国のApple Cardユーザー向けに提供される銀行サービス、俗にいう「Apple銀行」が話題になった大きな要因の一つが、年率4.15%という破格の普通預金金利だろう。過去にはGoogleやLINEなどのテック企業も失敗してきた銀行参入に、強気で臨めるのはなぜか。
テック産業の巨人として、iOSやモバイルアプリのプラットフォームなどで市場をリードしてきた米アップルが、ついに銀行業界への参入を発表した。
米国のApple Cardユーザー向けに提供される銀行サービス、俗にいう「Apple銀行」が話題になった大きな要因の一つが、年率4.15%という破格の普通預金金利だろう。日本のメガバンクにおける普通預金の金利相場0.001%と比較して、実に4150倍もの金利だ。
そのため、アップルが実際にサービスを提供すると見られる米国以上に、低金利が続く日本で大きな話題を巻き起こした。利上げが続く米国の政策金利は足元で4.75〜5.00%と設定されており、そこまで高い金利でもないという声も一部で見られる。
金利「4.15%」は、業界平均の10倍?
しかし、いくら米国の政策金利が高かったとしても、米国の金融機関でここまでの高金利を提供する銀行は決して多くない。JETRO(日本貿易振興機構)は、米国における利上げに預金金利の上昇が追い付いていないとするレポートを2022年11月に公表している。その中で、政策金利の誘導目標が3.75〜4.00%に設定されていた当時の水準でさえも、平均的な預金金利が「0.24%」であることを示していた。
そこから現在までに1%ほど、さらなる利上げが行われてきたにもかかわらず、直近の全米における平均的な預金金利は0.40%程度にとどまっている。このような状況を踏まえると、米国の金融機関は、FRBによる利下げ政策への転換なども見込んだ上で、普通預金金利を上げることに引き続き慎重な姿勢を取っていると考えられる。
特に、大手の金融機関ほど、足元の政策金利高を反映していない。バンク・オブ・アメリカやJPモルガン&チェース銀行におけるセービングアカウント(日本の普通預金に相当)は年率0.01%で、ウェルス・ファーゴのセービングアカウントも年率0.15%と政策金利を大幅に下回っている。これは日本のネット銀行の普通預金金利とほとんど変わらない水準だ。直近の金利高は全く反映されていないといっても過言ではないだろう。
その一方で、米フィンテック企業である「ソーファイ」のような新興・ネット系の金融機関や、事業会社をルーツに持つアメックス・ナショナルバンクのような銀行の中にはApple銀行とほぼ同水準の年率3.00〜4.00%程度で預金サービスを提供している例も少なくない。一部では5.00%近い金利を提供している金融機関もみられるほどだ。
そのように考えると、Apple銀行の金利は、米国の平均的な金融機関や、最大手クラスの金融機関などと比較すると金利面で優位性があるといえるが、高金利の金融機関の中で比較すると突出して高すぎる金利を提供しているわけではない。しかし、アップルのように着実な収益基盤のある企業が運営する銀行であれば、他の高金利銀行よりも万が一の際に元本が毀損(きそん)しないという信頼感は大きいだろう。
従って、Apple銀行は大手金融機関だけでなく、高金利の金融機関からも預金シェアを奪っていくものと考えられる。
ここで疑問となるのが、なぜこのようにユーザーに待ち望まれていたサービスを、他のテック巨人は提供していないのかという点だろう。実は、テック巨人各社も銀行業に参入しようとして失敗した経緯があるのだ。
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