Apple銀行「金利4%超」の衝撃 GoogleやLINEも失敗した銀行参入、なぜ強気で臨むのか:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)
米国のApple Cardユーザー向けに提供される銀行サービス、俗にいう「Apple銀行」が話題になった大きな要因の一つが、年率4.15%という破格の普通預金金利だろう。過去にはGoogleやLINEなどのテック企業も失敗してきた銀行参入に、強気で臨めるのはなぜか。
Google銀行は失敗……Apple銀行の勝算は?
テック企業と銀行業の相性は悪いのかもしれない。
実はグーグルも「Google銀行」の構想を失敗させている。同社は19年にGoogle Payを活用した銀行サービスの構想を明らかにしていたが、わずか2年後に計画を中止した。19年頃には「Amazon銀行」も「そろそろ出てくるぞ」という声が高まったものの、いまだに音沙汰がない。
アマゾンも決済事業やレンディング、クレジットカードといった金融関連のサービスを複数提供しているが、銀行サービスに触れていないことを考えると、想像以上に銀行業への異業種参入はハードルが高いのかもしれない。
ちなみに、日本では異業種の企業が金融業界に参入する例が活発だ。「楽天銀行」や「イオン銀行」「セブン銀行」を筆頭に、さまざまな異業種事業者が自社サービスの顧客囲い込みなどを目的として銀行の設立に乗り出してきた。
しかし、そんな日本でもテック企業と銀行業の相性は悪かったといえるかもしれない。通話アプリからの脱却を目指していたLINEによる「LINE銀行」の構想は、23年3月にプロジェクトの頓挫が明らかになった。
LINEは証券業や貸金業などへの参入には成功した。しかし当局への登録で足りる証券・貸金業とは異なり、厳格な「免許」が必要となる銀行業への参入ハードルは一段と高いことも、頓挫の一因だったと考えられる。
同社はパートナーのみずほ銀行と共同で計画中止のプレスリリースを出し、「安全・安心で利便性の高いサービス提供には、さらなる時間と追加投資が必要であり、お客さまのご期待に沿うサービスのスムーズなご提供が、現時点では見通せない」と締め括った。
国内外でテック系企業の銀行参入が失敗する中、Apple銀行はどこに勝機を見出しているのだろうか。市場ではその戦略的な意図を探る動きがあるが、構想の基本となる点は、アップルが同社の既存事業で培った信頼性とブランド力を生かした新たな収益源の開拓が第一だろう。
Apple銀行が提供する破格の普通預金金利4.15%は、同社が金融ビジネスに参入する際の強力な差別化要素として機能するだろう。そしてこれにより、多くのユーザーがアップル全体のサービスに興味を持ち、Apple Card以外の会員や製品ユーザーを増やしていく効果を期待しているのではないか。そうでなければ、アップルのような利益率の高い会社が、わざわざ利益率の小さい銀行を経営して、経営コストを重くさせる合理性には乏しいだろう。
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