Apple銀行「金利4%超」の衝撃 GoogleやLINEも失敗した銀行参入、なぜ強気で臨むのか:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
米国のApple Cardユーザー向けに提供される銀行サービス、俗にいう「Apple銀行」が話題になった大きな要因の一つが、年率4.15%という破格の普通預金金利だろう。過去にはGoogleやLINEなどのテック企業も失敗してきた銀行参入に、強気で臨めるのはなぜか。
事業や金利の先行きによっては“改悪”のリスクも
「ハイリスク・ハイリターン」という言葉があるように、金利が大きいということは、それに応じたリターンの毀損リスクがあるのが大原則だ。そうであるからこそ、私たちがお金を借りるときに、大企業で高年収のサラリーマンであれば低い金利でお金を借りることができるし、年収が少なければ高い金利を支払ってお金を借りなければならない。
米国の超大手金融機関各社が、政策金利に限りなく近い水準で預金金利を設定することを嫌うのはなぜだろうか。背景には、盤石な経営基盤を持って顧客預金を守ることができ、低リスクという付加価値を提供することで、低リターンを許容してもらうという価値がある。23年には米国で複数の金融機関が破綻し、取り付け騒ぎに似た預金の流出が発生した。
今回は特例で破綻した銀行預金は結果的に満額を保護されたが、預金も金融商品の一つであり、リターンに応じたリスクが内包されていることは肝に銘じておくべきだろう。
ただし、事業会社が経営する銀行は、預金金利を一種の「広告宣伝費」のようにアピール目的で設定することがある。顧客を自社の経済圏に引き込み、クロスセルを通じて収益を上げて狙いで高金利に設定するケースだ。こうした銀行は、本業が傾くことによる金利の改悪がリスクとして挙げられる。
22年には、楽天経済圏の一翼を担う楽天銀行が普通預金金利を“改悪”したとして話題になった。従来の年利0.1%の預金金利に「300万円まで」という制限をかけ、それを超える金額の部分については25分の1となる0.04%しか金利がつかなくなったのだ。
当時、日銀はマイナス金利を深掘りするといった金利を下げる政策を行っていない。そのため、この“改悪”は難航するモバイル事業の資金繰りを緩和するためという見方が強い。
つまり、異業種参加の銀行が提供する「高金利」は、中央銀行の金融政策リスクに加えて事業会社の経営戦略リスクも内包されたものになるため、同じ預金金利でも性質がやや異なるのだ。
Apple銀行は同社の金融ビジネスの拡大に伴い、アップルの経済圏強化という観点で一定の成果を見せるだろう。しかし、長期的な視点で見れば、すでに一部の市場において政策金利の低下が織り込まれている。また、景気後退に伴うAppleの本業が収縮することによって、高金利を維持できなくなり、改悪されるリスクもある。
Apple銀行はどのように顧客を開拓し、本業の収益へ影響を与えていくのか。注意深く見守っていきたい。
筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO
1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら
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