「バスの方が速い」 選ばれない理由
普通、鉄道は線路上をクルマより高速で走れるものだ。しかし芸備線・備後庄原駅〜備中神代駅間はこの法則が当てはまらず、道路を走るバスの方が最高速度・移動の快適さ、ともに優れている区間が多い。
芸備線は戦前に建設されたこともあり、急カーブが多い。落石の危険がある岩肌の下を、場所によっては最高時速15キロ、ほぼ自転車並みの徐行で抜けていく。特に備後落合駅〜比婆山駅間は5.6キロを15分という安全運転ぶりだ。
また、徐行の対象となる崖や山肌は、土砂災害による度重なる長期運休の原因となることも多い。19年には「土砂崩れに車両が乗り上げ脱線・運休」という事故が起きたばかりだ。減災化が進まず運休が多いまま放置されたことも、利用者が“芸備線離れ”を起こした原因だろう。
片や、芸備線と並行する路線バスは、道路の快適さもあって運行はスムーズだ。例えば、東城駅〜備後庄原駅間のバス(広島市内行きの高速バスの区間利用)は、芸備線が北側に大きく蛇行する区間を高速道路でショートカット。鉄道が約100分・乗り換え1回で移動する区間を、半分の所要時間で移動できるとあって、庄原市内への通学にはよく使われている。
また、街の賑わいが駅から遠いバイパスに移っていることもあり、庄原市中心部、西城地区(旧・西城町)ともに、スーパー・商業施設・病院・学校は路線バスで移動した方が便利なケースが多い。
先に述べた高校の通学モニター募集の際にも「列車の本数が少ない」「駅と学校・商業施設などが遠い」という声が挙がっており、時間を選んで駅チカの学校に登校して、下校時にはどこかの店でダベッて帰る――ということができないため、鉄道通学が根付かなかったのだろう。
自治体側では、高校生を対象にした市内移動の定期券(備北交通「ちょこっとパス」1カ月500円)の販売などの施策をとってきた。所要時間や運転本数(特に三次駅〜備後庄原駅〜備後西城駅間は、圧倒的にバスの本数が多い)を考えると「最初から全て路線バスでカバーする」という選択肢も、あるように思えてならない。
庄原市は、芸備線と並行する備北交通・西城交通のバス路線に、備後庄原駅でのバスロータリーを新設したり、西城町のスーパーに時刻表示モニター付きの待合室を設置したり、利便性に気を配っている。
鉄道も路線バスも「地域の輸送を担う」役割は同じはず。芸備線の熱心な存続運動と同時に「現状の路線バスで、その役割は担えないのか?」と検討する必要があるのではないか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
北海道新幹線は「函館駅乗り入れ」なるか? 課題は山積み
北海道新幹線は「函館駅乗り入れ」なるか? 大泉新市長の元、取り組みが進められるが課題は山積み。どうなる?
北総鉄道、前年の“大幅値下げ”後に「赤字447億円」を完済 実現できた理由は?
北総線がピーク時の「赤字447億円」を完済。22年の10月に「通学定期を最大64.7%引き下げ」「普通運賃を最大100円引き下げ」という運賃改定に踏み切り、話題を呼んだ。なぜ今の今まで、劇的に運賃を下げられなかったのか。
日ハム新球場「エスコンフィールド」、“アクセス悪い”問題の元凶は? 現地で見えた課題
ファイターズの新しい本拠地となる新球場「エスコン」。開業時から、“アクセス悪い”問題が指摘されている。実際の原因を、現地で取材した。
低迷続きの福岡「七隈線」が、たった「1.6キロ」の延伸で「超混雑路線」になったワケ
開業から20年近く低迷が続いていた福岡「七隈線」が「超混雑路線」に変身? 背景には距離にしてたった1.6キロの延伸開業がある。
東京駅から羽田空港がたった18分! 「羽田空港アクセス線」でどうなる? 京急・東京モノレール
東京駅〜羽田空港間を結ぶ鉄道「羽田空港アクセス線」(仮称)が、2023年6月から工事に入る。首都圏の広い範囲から羽田へ乗り換えることなくアクセスが可能に。現状移動を担う京急・東京モノレールへの影響はあるのだろうか。
100円稼ぐのに「海鮮丼」並みの経費…… 北海道・留萌から「鉄道消滅」の理由
2023年3月末、留萌市から鉄道が消滅する。かつては一大ターミナルだった「留萌駅」。なぜ消滅に至ったのか、乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が解説する。
路面電車「宇都宮ライトレール」開業 使命は「渋滞ガチャ」解消も、課題ずらり
ベンチャー航空「トキエア」 “したたか”な戦略も、就航延期を繰り返すワケ
航空会社「トキエア」が新潟空港〜札幌・丘珠空港で同社初の航路を開設する。その戦略は非常に“したたか”だが、何度も就航延期を繰り返す。背景には深い事情がある……。


