新連載・宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:
乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。
利用者が少ないローカル鉄道の在り方を見直す際に、これまで地元自治体が協議を始めようともせず、その間にも経営状態が悪化していくケースがよく見受けられる。こういった事態を避けるために、鉄道の路線バス転換などを話し合う「再構築協議会」を、沿線自治体ではなく国(国交省)が設置できる法改正が、2023年10月から施行される。
そして、広島県・岡山県を走る「JR芸備線」(以下:芸備線)の備後庄原駅〜備中神代駅間(68.5キロ)が、国交省が鉄道会社(JR西日本)の意向をくんで「再構築協議会」を設置する初めてのケースとなりそうだ。
本来なら沿線自治体・鉄道会社が合意の上で設置されるはずの再構築協議会に、国交省が仲介に入らなければいけない理由は、ただ一つ。この芸備線に関しては、JR西日本の「鉄道にこだわらず、バス転換などの提案も検討してください」という主張に対して、沿線自治体(広島県庄原市・岡山県新見市)が、存続・廃止に関わる協議そのものを拒否しているのだ。
芸備線は、159.1キロにも及ぶ全線のうち、特に備後庄原駅〜備中神代駅間の乗客の減少が著しい。輸送密度(1キロ当たりの1日平均乗客数)で見ると、この区間は全て100人以下。特に、備後落合駅〜東城駅間では1日3往復、たったの13人と、厳しい経営状態が分かる。
「青春18きっぷ」シーズン以外は自分以外の乗客ゼロという状態を、筆者は何度も経験した。なお備後落合駅〜東城駅間は、JR西日本が運営する鉄道路線の中でもとりわけ乗客が少ない。
JR西日本は、この区間の今後について「前提を置かず、将来の地域公共交通の姿について速やかに議論を開始したい」(2022年5月「芸備線 庄原市・新見市エリアの利用促進等に関する検討会議」、以下:検討会議での発言)と申し入れるも、沿線自治体は「この検討会議は利用促進について話し合う場所」「路線の存廃を排除しない形での議論には応じられない」と主張している。
いわば「鉄道にこだわらず今後のことを考えませんか?」というJR西日本に対して「少しでも芸備線の存廃に触れるのなら、対話しません。こちらからは乗車促進の話だけします」と自治体が返したようなものだ。まずは、経営問題を含めた協議のテーブルについてもらうために、JR西日本は国に再構築協議会の設置を依頼せざるを得なかった。
自治体は、これまで芸備線の乗車促進に汗をかき、支え続けてきたという自負があるようだ。この先、芸備線に必要な議論は「存続・廃止」なのか、「乗車促進」なのか――。
芸備線の区間廃止は“待ったなし”……?
芸備線は、中国地方の山間部にある幾つもの都市と広島市内を直結する役割を果たしてきた。昭和30年代・40年代には、急行「ちどり」(広島〜備後落合〜松江間)、スキー列車「道後山銀嶺号」など、数々の優等列車が駆け抜けていた。
しかし、芸備線に並行するように、1978年に中国自動車道が開通。国道の改修・バイパス整備など道路事情の改善とともに、地元利用客はマイカーを利用するようになる。また、沿線の急速な過疎化もあって、乗客の減少に歯止めがかからず、減便によってさらに乗客が減少する――という負のループが何十年も続いてきた。今や、JR西日本が検討会議で「鉄道としての役割を果たしていない」と発言するほどに、乗客・運転本数ともに少ない。
この状況に、沿線自治体も傍観していたわけではない。2021年には前述の検討会議を発足し、以下のような取り組みで結果を出してきた。
- 庄原市・三次市の中学生に、高校進学後の芸備線利用を呼び掛ける→約600人中11人が「利用する」と回答
- 広島県内4校の高校生22人に、1カ月間モニターで芸備線で通学してもらう→2人が芸備線利用に切り替える
- ローカル線について考えるシンポジウムを開催→約1000人が来場、うち鉄道利用は約70人
取り組みの成果もあって、コロナ禍前(19年)と22年を比較して「芸備線全線で利用者2.7%増」「庄原市内で1日平均の利用者が微増(204→210人)」という結果が出ている。(岡山県側の新見市は56人→46人と減少)
しかし、沿線の地道な努力は、少なくとも1日数十〜数百人の利用者を1000人まで引き上げ、年間7億円程度の赤字の解消につながるようなものではない。さらに、イベント集客をアピールする沿線自治体に対して、JR西日本は「一過性の取り組みは、地域交通の再構築とは言えない」という、にべもない見解を示している。
備後庄原駅〜備中神代駅間だけでも巨額の損失が出ている以上、JR西日本も「鉄道経営」という根本的な部分にメスを入れざるを得ない。その中で、自治体が「利用促進」などとお茶を濁すような段階は、とうに過ぎているのではないか。時間を稼ぐ背景に鉄道への愛着・愛情があったとしても、話し合いの門戸を閉ざしてしまう理由にはならない。
果たして芸備線は「鉄道でなければいけない」のだろうか。ほぼ並行している鉄道と路線バスを乗り比べつつ、検証してみよう。
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