文化を作る
第4のステージは、ここまでお話しした「仕組みへの組み込み」を持って、いったん完成します。しかしながら、これでもまだ十分ではありません。
仕組みに組み込んだものは日常に取り込まれ、メンバーがあまり考えずに実践するようになり、やがて、どうしてその行動がルールになったのかも分からなくなるときがきます。仕組み化は、ともすると陳腐化の始まりとなってしまうのです。
そこで「新しい文化に基づく新たな変化」が必要になります。これは、改革の過程でアタリマエ行動にしてきたものを定期的に見直したり、改革の過程で見つけた新たな課題に取り組んだりすることを指します。
第4のステージの前半、「仕組みへの組み込み」までは、長時間労働を改善するというテーマ自体に注目しています。しかし、「新しい文化に基づく新たな変化」になると、これはテーマにかかわらず、組織や人が自らを変え続けていける、自分たちの課題は自分たちで解決できる力があると思える――といった組織能力の獲得を意味します。そういう意味では、改革に終わりはないといえるかもしれません。
組織開発 押さえておくべき2つのポイント
ここまで、コッターの8つのプロセスも参考に、4つのステージに分けて組織改革のポイントをご紹介してきました。最後に、皆さんが組織改革に関わることになったときに押さえておくと良いことを2つご紹介します。
(1)会社や組織によって、苦手なステージがある
さまざまな企業を拝見していると、第1ステージばかりを繰り返している会社や組織、第2ステージまでは順調に進むが第3ステージに進めない会社や組織などが存在します。会社や組織によって、このステージで止まりやすいという傾向があるようです。
そういうときは、以下を点検してみましょう。
(1)第1のステージをぐるぐるしている
(例:毎年「変える」「変革」と言い続けるが何も進まない場合)
→よく世間で聞くような借り物の目的を置いたり、やった感を重視したりしていませんか?
(2)第2のステージで止まる
(例:高らかに改革の開始を宣言し、キックオフの施策を行うが、その後どうなったか分からない。そのうちにまた次のキックオフ施策が行われる)
→施策が打ち上げ花火のように、最初だけ華々しくなっていませんか? 初めの一歩を後押しできていますか。積極的に動いてくれた人が孤軍奮闘する形になっていませんか?
(3)第3のステージで止まる
(例:期間を決めて集中して行う取り組み自体は成果を上げるものの、それが定着せずに元に戻る)
→職場での取り組みを1周しただけで終わりにしていませんか? または、改革を職場任せにして、職場の単位でしかできないことに小さくまとまっていませんか。職場だけでは解決できないような課題に対応していますか。
(2)ステージの変わり目では、一見望ましくない動きや結果が見られることがある
例えば、長時間労働の改善に関連して、全社にアイデアを募ったところ、社員からたくさんのアイデアが集まったとしましょう。
提案内容を見た経営層は「当社の社員は、こんなくだらないアイデアしか出せないのか。これはアイデアではなく単なる不平不満じゃないか……」とがっかりし、憤りを覚えてしまう――こうした場面に遭遇したことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このように、職場の一人ひとりが「自分が意見を出すことに意味がある」「自分は改革の当事者である」と思えるようにする過程で、いきなり質や精度を求めると失敗することがあります。
最初は提案を出してくれたことに感謝したり、その中に少しだけ存在する光るアイデアに取り組んでみたりする、いわば「量を増やす」フェーズです。しかし、いきなり「質が高まること」を期待してしまうと、取るに足らないアイデアの山を見た人たちが「改革自体を失敗だった」と判断しがちです。
このような場合に、「まずは提案がたくさん出てくることをもって良しとしよう。提案の質は後から期待していくようにしよう。物足りないと思うアイデアがあっても、単に社員の提案を募るだけでその後音沙汰なしでは、社員の改革のエネルギーも削いでしまう。だから、いくつかのアイデアは実際にやってみよう」と、取り組みの過程で起きる一見悪い動きを想像し、それは次に進む上で必要なことだと理解しておくことは重要です。
改革のステップが進捗する過程で見せる、一見望ましくない動きや結果を想像しておくことで、本当は進捗している改革を途中で止めなくて済むかもしれません。
「教えて!組織改革」をテーマに、5回にわたって組織改革のステップやポイントをご紹介してまいりました。この内容が、皆さまの組織やそこで働く方々にとって、お役に立てればうれしいです。
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