昨今、電話だけではなくメールやチャット、SNSなどのさまざまなチャネルで顧客対応をするようになった。「電話=コール」を示す「コールセンター」から「コンタクトセンター」へと名称を変えている企業も多い。
こうしたコンタクトセンター業務には今、ボットやAIを活用した「自動化」の波が急速にやってきている。
生成AIのビジネス活用が進む中、コンタクトセンター業務もまた「デジタル上で全て完結」するようになるのか――。コンタクトセンターアウトソーシング事業を展開するベルシステム24(東京都港区)コンサルティング部門パートナーである筆者の立場から考察する。
コールセンター業務が完全自動化するという幻想
2023年の流行語にも選ばれた生成AIの登場は、世界規模であらゆる企業に影響を及ぼすとして注目されている。コンタクトセンター業界でも、顧客対応の自動化だけでなく、後処理の効率化、応対の音声データ活用といった取り組みを行っている。
昨今の生成AIブームが起きる前に実は一度、AIブームが起きていたように思える。Google傘下の米DeepMindが作ったAI「AlphaGO(アルファ碁)」が世界のトップ囲碁棋士に勝利したというニュースを覚えている読者もいるだろう。16年頃のことだ。
私は囲碁が趣味なので、その時の衝撃をよく覚えている。当時の囲碁AIはアマチュアには勝てても、プロ棋士にはまず勝てないというのが定説だった。しかし、これ以降はAIがプロ棋士に勝利するのは当然となり、若手はもちろん、囲碁界屈指の強豪棋士、井山裕太さんでさえ、AIを利用して腕を磨く時代へと変わった。
顧客対応の自動化についても、囲碁の世界と同じようにAIブームの波が押し寄せてきた。
囲碁は定型フォーマットのゲームなので、ある程度のパターン化が可能なこともあり、AIが最も得意とする領域。一方で顧客対応は、非定型なものも多く、同じ土俵ではない。しかし、コールセンターの仕事がAIに置き換わって、すぐにでも完全自動化できるような幻想が広がった。
とある企業より「全ての応対をAIにして、コールをゼロにして欲しい」とリクエストされ、驚愕したこともあった。当時のAIのレベル、コスト面、顧客のリテラシーなどさまざまな課題により、自動化は浸透せずブームは下火となっていった。
ここ数年はセンセーショナルな生成AIの登場があっても、クライアント企業からは「全てをAIで自動化したい」といった相談はなく、「どうやったら、実業務にAIを使用できるか」といった現実的な相談をされることが増えている。各企業が、自動化の方向性を日々、模索しているのが現状だ。
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