「首都圏第3空港」の可能性 4つの事例から占う
過密な羽田空港から航空便を分散させるため、羽田・成田に次ぐ「首都圏第3空港」構想」が各地で持ち上がり、実際に国土交通省が候補地からのヒアリングを行っていた時期もある。
しかし、いまも「首都圏第3空港」といえるものは誕生していない。各地の事情を見てみよう。
茨城空港〜羽田分散を担えなった「自称・首都圏第3空港」
羽田・成田に次ぐ首都圏の空港「茨城空港」の年間利用者は59.5万人と、羽田・成田には全く及ばない。茨城県はこの空港を「首都圏第3空港」と位置付けているものの、やはり、東京の都心から90キロも離れ、最寄りの鉄道駅(JR常磐線・石岡駅)からのアクセスはバス(かしてつBRT)のみという、「都心から遠すぎ問題」で、航空会社・利用者の支持を得られていない。
近年では、アクセス改善の切り札として「つくばエクスプレス」延伸・乗り入れが検討されたものの、採算性の問題で建設への検討を打ち切っている。
航空自衛隊・百里基地と滑走路を共用(軍民共有)するがゆえの規制も悩ましい。23年10月まで「民間機の発着は1時間に1本」という制限を受けており、過去には民間機より航空隊の訓練スケジュールが優先されるなど、何かと規制やしがらみも多いのだ。
もっとも茨城空港は建設当初から、ターミナル・設備をLCC(格安航空会社)仕様に振り切っており、国内のLCC航路が就航していない羽田空港の代替はあまり望めなかっただろう。開港4カ月前には橋本昌・茨城県知事(当時)から「ANA・JALはダメにしても、他があるから」(09年12月10日・定例会見)と匙(さじ)を投げたような発言も出ていた(09年12月11日、茨城新聞参照)。頼みの綱であった国際線LCC「エアアジア」の進出も、滑走路の強度の関係で大型機(エアバス・A330など)が頻繁に離着陸できないという事実が判明、すんでのところで誘致に失敗。せっかくの空港を、思うように集客につなげることができていない。
調布飛行場〜都心に激近も「拡張の余地なし」
ほか東京都内には、伊豆諸島への航路の拠点「調布飛行場」がある。しかし800メートルしかない現在の滑走路を拡張しようにも、北側の多磨霊園と西武多摩川線、南側の中央道・調布ICとの調整が必要となってしまう。
何よりこの周辺はすっかり宅地化されており、ジェット機の発着に必要な1500メートルへの拡張は相当に難しい。
多摩地区「米軍横田基地」 都心から38キロ、滑走路長も十分だが……
東京都の多摩地区西部にある「米軍横田基地」は都心から38キロ、現在でも3350メートルの滑走路があり、米軍・自衛隊と民間の航空会社で活用する「軍民共用化」が長らく検討されている。
歴代の都知事の中でも石原慎太郎・猪瀬直樹の両知事が、ことあるごとに「羽田・成田の拡張より、横田基地の活用を」と主張。東京都都市整備局のWebサイトには、いまも「軍民共用化の早期実現に向けて取り組んでいます」との文言があり、年額1000万円程度の調査予算(「日本空港コンサルタンツ」に委託)も毎年のように割かれている。
しかし、昭島市・瑞穂町の反対が根強く、長らく裁判で争われている騒音問題の解決は難しい。一方で、武蔵村山市が「民営化によるターミナル誘致」を前提とした賛成に回ったり、福生市が年間約30億円(一般予算の9.7%、令和4年度)にものぼる基地関連の交付金が「なくなっては困る」という立場で反対意見(交付金しだいで立場が変わる?)を示すなど、地元の反応は必ずしも「反対」ばかりでもないようだ。
ただ実際には、開港前・開港後ともに、米軍のルールに従う必要がある。ロシア有事などで横田基地の重要性が増している現状では、軍民共有化は「一見実現しそうだが、ほぼ不可能に近い」状況といえる。
「空港なし県」それぞれの動き
羽田・成田・茨城の3空港のお膝元をのぞいた「空港なし県」は、神奈川・埼玉・栃木・群馬の4県。うち、神奈川県は「首都圏第3空港」を諦めたのち、羽田へのアクセス道路を改善するという「羽田連絡道路」構想を提唱。2022年に開通した「多摩川スカイブリッジ」は、羽田空港と川崎市をものの数分で結ぶ。
ほか、埼玉県・群馬県の10市町が、24年1月に「県境への空港整備を検討している」と発表したばかり。具体的な内容は何も決まっていないため、実現するにしてもあと十数年はかかる。
成田空港の拡張、各県の空港構想などさまざまな動きがあるが、「羽田空港の需要を分散できる空港は、当面開港しそうにない」「羽田空港のこれ以上の拡張も難しい」ということは変わりない。ターミナル機能の改善や、都心へ連絡する鉄道・バスの整備で「羽田以外」の魅力を高め、航空各社に移ってもらう以外、打つ手がなさそうだ。
宮武和多哉
バス・鉄道・クルマ・駅そば・高速道路・都市計画・MaaSなど、「動いて乗れるモノ、ヒトが動く場所」を多岐にわたって追うライター。幅広く各種記事を執筆中。政令指定都市20市・中核市62市の“朝渋滞・ラッシュアワー”体験など、現地に足を運んで体験してから書く。3世代・8人家族で、高齢化とともに生じる交通問題・介護に現在進行形で対処中。
また「駅弁・郷土料理の再現料理人」として指原莉乃さん・高島政宏さんなどと共演したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」(既刊2巻・イカロス出版)など。23年夏には新しい著書を出版予定。
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