「新しい成田空港」構想
政府もかつては「国際線は成田、国内線は羽田」(内際分離)という原則で成田への分散を行っていたものの、07年に打ち出された「アジア・ゲートウェイ構想」では、好立地を生かした羽田空港の拡張・活用が行われ、必ずしも成田空港への分散にこだわらないようになっている。この構想発表後の、羽田空港・成田空港の拡張策を見てみよう。
羽田空港は「アジア・ゲートウェイ構想」発表後、10年に新滑走路(D滑走路)の新設で発着枠増加。14年にも昼間の国際線の増加に踏み切った。20年3月には新宿・品川の上空を通過する離着陸ルートを設定し、発着枠(発着できる本数)を暫定で増加させた。この「暫定運用」は、現在も続いている。
羽田空港はおそらく、これ以上の拡張が難しい。これまで海上空港という立地を生かして「埋め立て→新滑走路」という拡張を繰り返してきたものの、東側では既に東京湾の航路近くまで埋め立てが進んでおり、何より上空の空域が足りない。
羽田空港から都心へのアクセスは「羽田空港アクセス線」(羽田空港駅〜東京駅、31年度開業予定)建設でさらに便利になる予定だが、肝心の発着枠増加は、もはや「手持ちのカードを切りつくした」感がある。
一方で成田空港は、羽田空港の代役を担うべく、3本目の滑走路(C滑走路)建設や、B滑走路の延伸などの準備を進めている。構想通り発着容量を年間30万回から50万回に引き上げることができれば、羽田空港の代替をある程度担うことができるだろう。
さらに、今後の改修のもう一つの目玉は、3本の滑走路の中心部に拠点を置く「ワンターミナル化」だ。
滑走路を横並びに作り、ターミナルを設ける羽田空港のような配置ではなく、円状に滑走路を配置し、中央にターミナルを作るというこの構造は「とりあえず中央部に移動して!」と案内でき、利用者にとって分かりやすい。近年では中国・北京大興国際空港がこの構造を採用しており、日本でも諸事情でその名を知られる世界的建築家のザハ・ハディド氏の独特のデザインが目を引く。
成田空港はいま、3つの旅客ターミナルと付随する施設がバラバラに設置されており、利用する側は分かりづらい。管理する側にとっても非効率で、かつ老朽化も進んでいるという。全てをまとめて「ワンターミナル」にリニューアルすることで、分かりやすく、今より効率よく運営できる、というわけだ。
しかしワンターミナル構想自体は「令和6年度内を目標にとりまとめる」状態であり、まだまだ議論の最中。新しい「C滑走路」の整備も近くを流れる高谷川の排水設備工事にかかったところで、あと4〜5年はかかりそうな状況だ。
なお千葉県は、羽田空港の拡張を伴う「アジア・ゲートウェイ構想」に25市町村が意見書を提出し、羽田空港の拡張をけん制するような動きを見せたことも。やはり「羽田拡張」より「成田空港のリニューアル」を推進する立場にあり、熊谷俊人・千葉県知事が「『第二の開港』ともいえる重要なプロジェクト」と発言するなど意欲を見せている。
成田空港の滑走路増設・ワンターミナル化の成否は、すでに民営化済の成田空港を千葉県がどれだけ後押しできるかが課題となりそうだ。
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