宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:
乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。
【お詫びと訂正:2024年3月27日午前9時35分 タイトルの一部を修正いたしました。訂正してお詫び申し上げます。】
日本一利用されている空港は、どこでしょう?――この問いに、ほとんどの方が迷うことなく「羽田空港(東京国際空港)」と即答するだろう。
東京都大田区の沖合を埋め立てて造られた羽田空港は、都内であれば武蔵村山市に匹敵する広大な敷地(1515ヘクタール)に4本の滑走路を擁し、1日約500便が発着。国内だけでも49空港と結ばれている。アクセスの良さから「都心にもっとも近い空港」として利用者にも選ばれ続けている。
年間の利用者は5075万人(2022年度)、2位の成田空港(年間1541万人、22年度)に大差をつけており、あらゆる数値で国内トップの座は揺らぎそうにない。
しかし同時に、羽田空港は「日本一、かつ世界有数に過密な運用を行う空港」でもある。4本の滑走路に最大で1時間90本が離着陸するというこの空港は、米・アトランタ空港、UAE・ドバイ空港に続き、混雑度で世界3位にランクインしている(23年・英国オフィシャル・エアライン・ガイド調べ)。 このままの状態が続くと、運航の面でも集客の面でももろもろと問題が生じる。
国(国土交通省)は羽田空港を拡張しつつ、さまざまな手を打っているものの、羽田空港への一極集中はむしろ進み、解消の見通しは立っていない。なぜ各航空会社は、一様に羽田空港への就航を目指すのか。首都圏の各空港の現状や、今後の見通しを探っていこう。
なぜここまで羽田に集中? 背景に2つの理由
08年、規制改革会議は「首都圏での発着枠100万回」(羽田空港50万回、成田空港40万回、その他10万回)が掲げられ、羽田空港以外の拡張を行ってきた。その後各地で空港の改修・拡張が進んでいるものの、航空会社は相変わらず、羽田空港の発着枠獲得を優先して動いている。
国内便・国際便ともに羽田空港への就航が集中する理由は、おおまかに2つ。「利便性の良さ」「羽田発着そのものが利益になる」ことに他ならない。
羽田空港から都心部への移動は「東京モノレール」「京急空港線・成田スカイアクセス」(都営浅草線などに乗り入れ)などで、移動距離は15キロほど。ビジネス街や観光地など、ほとんどの拠点に20〜30分ほどで到達できる。
「国を代表する都市への最寄り空港」として見れば、中国の北京大興国際空港(都心まで約46キロ、鉄道で約50分)、韓国の仁川国際空港(都心まで約60キロ、鉄道で約43分)などより、中心街へのアクセスは早くてラクだ。
この利便性のおかげで、羽田空港はハブ空港としても人気を保ち、発着枠は「1枠当たり売上100億円、利益ベース10億円を出せる」「日本の国内航空需要の6割が羽田路線」という試算が出るほどの価値を保ち続けている(※)。
※:「羽田空港の発着枠配分の課題―競争入札による市場メカニズム導入の可能性―」(小野展克、名古屋外国語大学論集 第4号 2019年2月)
過去に羽田空港の発着枠が拡大した際も、いまのスカイマーク、ソラシドエア、エアドゥの源流となる会社が次々と参入しており、発着枠そのものが利益、かつ業界の起爆剤ともいえる状態だ。過度な競争を避けつつ、限りある発着枠を分配するために、羽田空港の場合は5年ごとに見直しが行われている。
一方で、1978年に開港した成田空港(成田国際空港)は、開業当初の名称「新東京国際空港」からも分かるように、「東京国際空港」(羽田空港)に代わる役割を担っていた。「5本の滑走路」「2300ヘクタールの敷地面積」「成田新幹線で都心まで最短30分」「24時間運用」という当初の構想が実現していれば、今の羽田空港の代替を担い、過密状態をある程度解消することができただろう。
しかしさまざまな事情で、構想の多くは実現しなかった。2010年に開業した「成田スカイアクセス線」でも都心まで50〜60分はかかり、東京から遠い問題はなかなか解決しない。
成田空港は発着枠に空きはあるものの、かねての「利用が見込める時間の発着枠だけ埋まっている」状態は変わらない。立地的にグランドハンドリング(航空機の誘導やカウンター業務を担う)要員が集まりづらく、人員不足で増便要請を断るなど、新たな悩みの種も増えているという。
関連記事
- 北陸新幹線・敦賀延伸 迫る「対東京シフト」の大転換
2024年3月16日に北陸新幹線・金沢駅〜敦賀駅間が延伸開業する。新しい新幹線は、これまでの観光の需要に加えて、ビジネスでの出張移動なども期待されている。敦賀延伸で、福井県のビジネスパーソンの移動に変化が起き、さらに対首都圏シフトが進むのだろうか。 - 東京駅から羽田空港がたった18分! 「羽田空港アクセス線」でどうなる? 京急・東京モノレール
東京駅〜羽田空港間を結ぶ鉄道「羽田空港アクセス線」(仮称)が、2023年6月から工事に入る。首都圏の広い範囲から羽田へ乗り換えることなくアクセスが可能に。現状移動を担う京急・東京モノレールへの影響はあるのだろうか。 - 京葉線の「通勤快速廃止」 責任は本当に鉄道会社だけなのか
- ベンチャー航空「トキエア」 “したたか”な戦略も、就航延期を繰り返すワケ
航空会社「トキエア」が新潟空港〜札幌・丘珠空港で同社初の航路を開設する。その戦略は非常に“したたか”だが、何度も就航延期を繰り返す。背景には深い事情がある……。 - 東京BRTは巨大タワマン街「晴海フラッグ」の足になれるか 立ちはだかる4つの課題
- 総額648億円 JR東の赤字路線、原因は「収入が少ない」だけじゃない
- 大阪・金剛バス、なぜ全線廃止に? 自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態
大阪府の南東部を拠点とする「金剛バス」が全線廃止。背景には、自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態がある……。 - 「入社祝いで400万円」それでも足りないバス運転手 3つの元凶は?
- 話し合い拒否で長引く「JR西VS.自治体」の攻防 「乗客1日13人」の芸備線、存廃の行方は?
- 北海道新幹線は「函館駅乗り入れ」なるか? 課題は山積み
北海道新幹線は「函館駅乗り入れ」なるか? 大泉新市長の元、取り組みが進められるが課題は山積み。どうなる? - 北総鉄道、前年の“大幅値下げ”後に「赤字447億円」を完済 実現できた理由は?
北総線がピーク時の「赤字447億円」を完済。22年の10月に「通学定期を最大64.7%引き下げ」「普通運賃を最大100円引き下げ」という運賃改定に踏み切り、話題を呼んだ。なぜ今の今まで、劇的に運賃を下げられなかったのか。 - 100円稼ぐのに「海鮮丼」並みの経費…… 北海道・留萌から「鉄道消滅」の理由
2023年3月末、留萌市から鉄道が消滅する。かつては一大ターミナルだった「留萌駅」。なぜ消滅に至ったのか、乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が解説する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.