大阪・金剛バス、なぜ全線廃止に? 自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態:宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(1/4 ページ)
大阪府の南東部を拠点とする「金剛バス」が全線廃止。背景には、自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態がある……。
新連載・宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:
乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。
路線バスの運行を維持しようにも、運転手の不足で減便・路線の廃止を行わざるを得ない……。こんな状況が全国各地で相次いでいる。
その中で、大阪府の南東部を拠点とする「金剛自動車」(以下:金剛バス)が下した決断は、減便・廃止ではなく「3カ月後(2023年12月20日)をもって、路線バス全線(全15路線)ならびに、事業そのものの廃止」。同社は既に貸切バス・タクシーなどからも撤退しており、創業97年目にして、実質的な会社の閉業を迎える。
「路線バスの大幅縮小・会社ごと撤退」という事例は、過去にないわけではない。しかし、金剛バスのホームエリアである大阪府の南東部(富田林市・太子町など)は総計で15万人以上もの人口があり、電車なら大阪市内に30分程度で到達できるとあって、市外への通学・通勤も多い。金剛バスは、富田林駅・喜志駅(近鉄長野線)・上ノ太子駅(近鉄南大阪線)と住宅街を結んでいる。過去に破綻したバス会社と比べると、それなりに恵まれているのだ。
しかもこのエリアは、クルマ以外の公共交通が路線バスのみという地域も多い。特に南河内郡河南町は約1.5万人の人口を擁し、戸建て住宅が密集する住宅街「さくら坂」から富田林駅に向かうバスは、朝晩は当然のように座席がふさがり、利用者は通路まであふれる。
いまは減少傾向にあるとはいえ、金剛バスは1日約2600人の利用があり、地域の過疎化も限界まで進んでいるわけではないこの環境の中で、バス会社としての“突然死”が起きてしまった訳だ。全国各地のバス会社や利用者からすると「大阪近郊でダメなら、地方のバス会社は、うちの地方は一体……」と、背筋が寒くなるのも当然だろう。同社が下した閉業の決断は、こうして全国で、ことさら大きく報じられた。
大都市の近郊という恵まれた条件下にあったはずの同社は、なぜ実質的な廃業に踏み切らざるを得なかったのだろうか。
金剛バスはなぜ助からなかったのか
金剛バスによると、路線バス事業から撤退する直接の理由は「運転手の不足」とのこと。必要とされる30人の運転手のうち、今後も就業できるのは20人程度。いわゆる「2024年問題」でドライバーがいま以上に不足することは明らかで、これでは到底、バス事業を続けることはできなかっただろう。
それだけでなく、12年に年間172万人だった利用者は、20年には106万人まで減少。もう10年以上も赤字が続いていた。
【お詫びと訂正:2023年10月25日午前10時55分 文章の一部を修正しました。お詫びして訂正いたします。】
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