大阪・金剛バス、なぜ全線廃止に? 自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態:宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(2/4 ページ)
大阪府の南東部を拠点とする「金剛バス」が全線廃止。背景には、自治体の責任と運転手の過酷な勤務実態がある……。
問題の本質と向き合わなかった自治体の責任
そんな金剛バスに対して、エリア内の各自治体は、利用促進策を中心とした支援を行ってきた。
例えば富田林市では、市内の総合公園 (サバ―ファーム)への路線延長に対する経費を補助。また、コロナ禍で乗客が半減した21年には、補助金を活用して市内バス運賃を期間限定で100円均一に。いずれも一定の利用者増加につなげた。太子町でも、支援を行った上で20年にバス路線の新設を行ったばかりだ。
しかしこれらは、あくまでも「市が希望したバス路線の赤字補填」であり、運転手の養成や設備の建て替え、車両の更新(金剛バスは建物・車両ともに、全般的に相当年季が入っている)に直接つながるものではない。過去の富田林市議会の動きを見ていても、こういった補助を検討している形跡はない。拠出が増えないかたちでの増便や、交通系ICの導入など、税金を拠出する側としての要望を矢継ぎ早に行っており、これでは金剛バスの負担は増えるばかりだっただろう。
なお各自治体は、金剛バスからの申し出を今年5月に受け、補助金の拠出を申し出たものの断られ、廃業のニュースは9月に表沙汰に。各自治体とも3カ月後の全面廃止に向け、近隣の近鉄バス・南海バスと引き継ぎ交渉を行っているものの、準備期間の短さもあって苦戦しているという。こうしてみると、各自治体が金剛バスの抱える根本的な問題を直視せず「ちょっと乗客を増やせば、今後とも無条件で協力してくれるだろう」と甘い見立てであったことは否めないのではないか。
国道交通省が発表した「令和4年度交通政策白書」によると、路線バス事業者はコロナ禍で利用者、経常収益が2割ほど減少。94.0%が赤字を抱える(令和5年版交通政策白書より)だけでなく、運転手の不足で運行の継続が厳しくなっている場合も多いという。
さらに間もなく「2024年問題」によるさらなる人材不足は避けられない。今後、地方、都心部に限らず、“第二・第三の金剛バス”が出る可能性は大いにあるだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
日ハム新球場「エスコンフィールド」、“アクセス悪い”問題の元凶は? 現地で見えた課題
ファイターズの新しい本拠地となる新球場「エスコン」。開業時から、“アクセス悪い”問題が指摘されている。実際の原因を、現地で取材した。
北海道新幹線は「函館駅乗り入れ」なるか? 課題は山積み
北海道新幹線は「函館駅乗り入れ」なるか? 大泉新市長の元、取り組みが進められるが課題は山積み。どうなる?
北総鉄道、前年の“大幅値下げ”後に「赤字447億円」を完済 実現できた理由は?
北総線がピーク時の「赤字447億円」を完済。22年の10月に「通学定期を最大64.7%引き下げ」「普通運賃を最大100円引き下げ」という運賃改定に踏み切り、話題を呼んだ。なぜ今の今まで、劇的に運賃を下げられなかったのか。
話し合い拒否で長引く「JR西VS.自治体」の攻防 「乗客1日13人」の芸備線、存廃の行方は?
低迷続きの福岡「七隈線」が、たった「1.6キロ」の延伸で「超混雑路線」になったワケ
開業から20年近く低迷が続いていた福岡「七隈線」が「超混雑路線」に変身? 背景には距離にしてたった1.6キロの延伸開業がある。
東京駅から羽田空港がたった18分! 「羽田空港アクセス線」でどうなる? 京急・東京モノレール
東京駅〜羽田空港間を結ぶ鉄道「羽田空港アクセス線」(仮称)が、2023年6月から工事に入る。首都圏の広い範囲から羽田へ乗り換えることなくアクセスが可能に。現状移動を担う京急・東京モノレールへの影響はあるのだろうか。
100円稼ぐのに「海鮮丼」並みの経費…… 北海道・留萌から「鉄道消滅」の理由
2023年3月末、留萌市から鉄道が消滅する。かつては一大ターミナルだった「留萌駅」。なぜ消滅に至ったのか、乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が解説する。
路面電車「宇都宮ライトレール」開業 使命は「渋滞ガチャ」解消も、課題ずらり
ベンチャー航空「トキエア」 “したたか”な戦略も、就航延期を繰り返すワケ
航空会社「トキエア」が新潟空港〜札幌・丘珠空港で同社初の航路を開設する。その戦略は非常に“したたか”だが、何度も就航延期を繰り返す。背景には深い事情がある……。
来場者の4割が「野球観戦」をしない!? 日ハム新球場「エスコンフィールド」が試合日以外も集客を増やすワケ
北海道北広島市に、新しい球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」が開場して、もう半年が経過した。エスコンフィールドを語る上で「野球がない日」の来場者数が多いことにも注目したい。なんと、来客の4割弱が「野球観戦以外」の目的でエスコンフィールドを訪れているというのだ。

