北陸新幹線・敦賀延伸 迫る「対東京シフト」の大転換:宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(2/3 ページ)
2024年3月16日に北陸新幹線・金沢駅〜敦賀駅間が延伸開業する。新しい新幹線は、これまでの観光の需要に加えて、ビジネスでの出張移動なども期待されている。敦賀延伸で、福井県のビジネスパーソンの移動に変化が起き、さらに対首都圏シフトが進むのだろうか。
対首都圏への移動需要を育ててきた 航空VS.鉄道の戦いの歴史
北陸新幹線の開業まで首都圏への移動を長らく担ってきたのが、1961年に開港し、いまでも羽田・新千歳(北海道)、福岡、ソウル・台北などへの定期便の拠点となっている 「小松空港」だ。2015年の北陸新幹線・金沢延伸で大幅な利用者減少に見舞われたものの、羽田空港発着便は北陸新幹線の直接のライバルとして、いまも1日10往復の運航が確保されている。
福井県からの利用者も多い航空便に、北陸新幹線はどう対抗し、そして共存をしていけばよいのか。まずは、対首都圏で競合を続けてきた飛行機・鉄道の関係を振り返ってみよう。
富山・金沢から首都圏への鉄道移動は険しい山越えで6時間以上もの時間を要し、早くから飛行機にシェアを奪われていた。しかし鉄道も徐々に所要時間を短縮し、北越急行(新潟県)と上越新幹線の乗り継ぎで東京〜金沢間が4時間を切った1997年以降、徐々にシェアを奪回していった。
しかし2015年の新幹線開業で、東京〜金沢間の所要時間は最短2時間28分に。フライトは1時間少々ではあるものの、おおむね3時間内に首都圏に直通できる新幹線が優位性を発揮しはじめる。ここで小松空港からの羽田発着便の利用者は、開業前の14年と比べて約62万人減に見舞われ、新幹線開業前に6割以上をキープしていた飛行機のシェアが3割弱まで落ち込んだ。
しかし航空会社(ANA・JAL)は大幅な減便を行わず、これまで小松空港の主役であった大型機をリージョナルジェット(定員160人程度、大型機の半分)に置き換え、持ちこたえてきた。
その後の利用者回復は、小松空港・航空会社・行政(福井県・石川県)が一体となった、福井県の利用者獲得の施策によるところが大きい。
まずは、全国有数のクルマ社会である福井県民を取り込むべく、駐車場の無料利用券を配布。福井県側から空港へのアクセスは北陸道・一般道ともに快適で、「配布後は福井ナンバーの駐車が20%以上増加」という成果を挙げたという(2019.12.27 朝刊 北国新聞『格安ツアーを新たに 北陸新幹線延伸を控え、需要喚起 小松−羽田便、福井客を取り込め』参照)。
他にも航空券とホテルが一体となった「ダイナミックパッケージ」を販売。「小松空港利用・福井県に宿泊」という緩い条件を満たすだけで、羽田空港〜小松空港の往復+ホテルで1.5万円以下になるような割引商品が出たこともある(福井県が1件5000円を補助)。
一方で北陸新幹線ではダイナミックパッケージのような思い切った商品がなくとも、「東京〜金沢を3時間内に直通」という利点だけで十分に集客ができていたためか、「えきねっと」による早期割引などでも、片道1万円を切るにとどまっていた。
さらに福井県・石川県とも各種バックアップを行い、特に石川県では谷本正憲知事(当時)から「首都圏での県職員の出張は、原則飛行機で」との指示が飛ぶほどのバックアップを受けていた。こういった取り組みが功を奏したのか、小松空港は17年には利用者がわずかながら増加に転じ、小松空港の利用者も、地方空港としては好調な年間100万人以上をキープしてきた。
新幹線・飛行機をダブルルートとして両立させてきたメリットは、「首都圏への移動需要を大幅に増加させた」ことだろう。飛行機は想定内の落ち込みで済み、ここに「安定した運行(年間の運休発生日はたった3日)」「特急型車両と比べものにならない乗り心地」という強みを持つ北陸新幹線が加わったことで、対首都圏への移動需要の拡大につながった。
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