伝説のドキュメンタリー番組の仕掛け人が上梓した『ありえない仕事術』とは?(1/3 ページ)
“伝説”のドキュメンタリー番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」シリーズを手掛けた上出遼平氏。話題作であり、問題作でもある『ありえない仕事術 正しい〝正義〟の使い方』(徳間書店)執筆の裏側を聞いた。
「世に出ている『仕事術』なんて嘘ばっかりじゃないか」
こう、いきなり投げかけてくるのが、テレビディレクターで作家の上出遼平氏が上梓した『ありえない仕事術 正しい〝正義〟の使い方』(徳間書店)だ。テレビ東京在籍時代に食をテーマにした“伝説”のドキュメンタリー番組「ハイパーハードボイルドグルメリポート」シリーズを手掛けた上出氏。マスメディアで10年間かけて培ったコンテンツ制作に必要な考え方を凝縮した書だ。
ただ、この本に書かれているのはそれだけではない。仕事への向き合い方を論じた第1部から、第2部へと読み進めていくと、読者は「大いなる仕掛け」に直面することになる。多くの出版社から「仕事術」執筆の依頼を受けながら、全て断ってきたという上出氏が、あえて「仕事術」と冠したビジネス書を執筆した目的はどこにあるのか。話題作であり、問題作でもある同書執筆の裏側を聞いた。

上出遼平(かみで・りょうへい)1989年東京都生まれ。テレビディレクター、プロデューサー、作家。2011年テレビ東京入社。ドキュメンタリー番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズ(Netflixにて配信)の企画、演出から撮影、編集まで制作の全工程を手掛け、同番組はギャラクシー賞を受賞。音声のみで制作した同番組Podcastシリーズ(Spotifyで配信)はJAPAN PODCAST AWARDS大賞を受賞。2022年6月テレビ東京退社後、ニューヨークに拠点を移す。著書に『ハイパーハードボイルドグルメリポート』『歩山録』など。2024年4月から中京テレビ『こどもディレクター』の制作に関わる
「仕事術の本を出すのはダサい」 カウンターになる書籍を
『ありえない仕事術 正しい〝正義〟の使い方』のタイトルを見ただけで、その内容を言い当てられる人がいるだろうか。
「はじめに」によると、上出氏はこれまでたくさんの出版社から仕事術の執筆依頼を受けながら、全て断ってきた。その理由を「世に出ている『仕事術』なんて嘘ばっかりじゃないか」と思っていたからだと打ち明ける。
目次を見ると二部構成になっている。第一部のタイトルは“そもそも「仕事」とどう向き合うべきか”。第二部は“ドキュメンタリーシリーズ『死の肖像』”。第二部の最後の小見出しは“拘置所にて”となっていて、ますます内容が分からない。
いったいどんな本なのか。ネタバレになるため全ては明かせないものの、上出氏は内容を次のように表現する。
「第一部はストレートな仕事術です。テレビというマスメディアで10年間ほどかけて培ってきた、コンテンツ制作の経験や発想の方法を言語化しました。不特定多数の人に対してどのような文法を使えば興味を持ってもらえるのか、どうすれば伝わるのかを具体的に盛り込んでいます。第一部だけを読み込んで理解してもらえれば、企画書作りや商品開発にも使えるでしょうし、例えばYouTubeの視聴回数を伸ばしたいといった要望にも応えられるのではないでしょうか」
続けて第二部についても教えてくれた。
「第二部にはトリッキーな仕掛けを施しています。僕にとっての仕事術は、定型化されたジャンルを壊していくこと。既存の様式を壊していくことが新しい価値の創造だと考えています。これ以上詳しい内容を明かすのは避けますが、第二部には大いなる仕掛けがあって、今までの仕事術の本とは全く違うけれど、読み終わったときに確かに一つの仕事術の提示になっているのが『ありえない仕事術』です」
上出氏は“世に出ている「仕事術」なんて嘘ばっかり”と吐き捨て、“ともすれば、その「仕事術」は画一的な「成功」の形を押しつけて、「幸福」の可能性を狭めている可能性さえある”とまで書いている。にもかかわらず、今回「仕事術」の本を書いたのは独特な理由からだった。
「仕事術の本を出すのはダサいとずっと思っていました。けれども、悔しさも感じていました。なぜなら、書店で目立つように並んでいるのは仕事術の本ばかりだからです。Amazonのランキングでも、仕事術や投資術、楽してもうける方法、チープな自己啓発の本などが上位を占めています。でも、本が好きで書店に行くのも好きなので、本の面白さはもっと別のところにあると思っていました。そこで、仕事術の本に対して何かカウンターになるものが書けないかと考えました。書くなら物語を書きたい。でも、物語は売れない。仕事術でなければ売れないのであれば、『仕事術の形を使って物語を書けばいいんだ』とアイデアが浮かびました。ちょうどそのタイミングで編集者からお声がけをいただいたのが、執筆に至った経緯です」
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