「大人のねるねるねるね」に「大人様ランチ」……なぜ大人はノスタルジーに魅せられるのか:令和の無駄学(2/2 ページ)
知育菓子は子どもにとっては、あれこれ入れたり混ぜたりする過程が料理のようで、大人のまね事をしたいという欲とともに、知的好奇心を満たすものになっています。一方で、大人はどのようなポイントで支持されているのでしょうか?
ポイントは「懐かしさの中にある新しさ」
また、インタビューの中でもう一つ多かったのが「子どもの頃食べていたものとは何が違うのか実際に食べてみたいと思った」「大人用と書かれていたことで、どんな味なんだろうと気になった」という意見です
多くの大人にとっては、20年以上前に自分が食べていたものになります。20年といえば、音楽の聴き方一つとってもカセットテープからCD、MD、ミュージックプレイヤー、配信サービスという変遷をたどるぐらい、長い時間です。いくらロングセラーの商品であれ、全く変化していないとは考えにくく、何かしらの進化が前提に考えられます。
ましてや、“大人用”と名のついた商品があれば、どんな進化があるのかと胸を躍らせずにはいられないでしょう。
実際に、最初に開発された『大人のねるねるねるね』(※4)は、ソムリエ監修のもと生み出された、大人も楽しめる甘さ控えめな赤白2種の本格ぶどう味でした。また、大人も最後まで飽きずにおいしく食べられるように、通常の『ねるねるねるね』よりもふんわりと軽い食感になっていたり、シュワシュワ発泡するトッピングをかけるとスパークリング感も楽しめる仕様になっていたり、大人ならではの楽しみ方を想定して作られているのが分かります。
インタビューで食べた後の感想を聞いた時にも「高級な感じがした」「子どもの頃食べたものとは違って本格的な感じがした」という意見がありました。
※4:『大人のねるねるねるね 赤白2種の本格ぶどう味』は終売。現在『大人のねるねるねるね』は異なるフレーバーを展開中。
ですが、こうした変化は必須なのでしょうか。昔のものを懐かしく食べられれば十分なのではないかと思う方もいるかもしれません。
ただ、懐かしさは儚さと表裏一体になっています。実際に、最近知育菓子を食べた方からも「昔はすごく難しく感じたのに、今やってみたら簡単でなんだか寂しかった」という意見もありました。新しさがない状態だと、懐かしさに浸れてうれしいという気持ちと同じくらい、マイナスな感情も残ってしまう可能性があります。それを打ち消してプラスの感情にしてくれるのが、懐かしさの中にある新しさなのかもしれません。
大人が「ノスタルジー」を求めるのは本能の一種
その他にも近いものとして、「大人様ランチ」があります。いろいろな飲食店が期間限定で定期的に出してくるメニューで、その名の通り、大人向けに「お子様ランチ」を進化させたものになります。
「大人様ランチ」のワンプレートには、オムライス・ナポリタン・ハンバーグ・エビフライなどの子どもが大好きなものが乗っているだけでなく、「お子様ランチ」の象徴ともいえる旗がついていることが多いです。この旗こそが、食事としては必要のない“無駄”だけれど最も重要なものでしょう。この旗を見るだけで子どもの頃「お子様ランチ」に目を輝かせた時の気持ちがよみがえり、ついつい「大人様ランチ」を頼んでしまうという方もいるのではないでしょうか。
もちろん、メニューは同じでも味付けは大人向けになっている場合が多いので、子ども向けの甘い味付けで飽きてしまう心配もなく、おいしく最後まで食べられるようになっています。
私たちがつい「ノスタルジー」を追求してしまうのには行動心理学的背景があります。子どもの頃は、全ての事象やモノを新しく感じ、ワクワクした気持ちになることが多い時期です。しかし、大人になると新しいものに直面する機会が減り、あまり代わり映えのない毎日をおくるようになります。そうすると、その反動でワクワク感=ドーパミン刺激を求めるようになるそうです。(※5)
※5:「村田裕之の団塊・シニアビジネス・シニア市場・高齢社会の未来が学べるブログ 『ノスタルジー消費』が経済動かす」参照
ドーパミンは快感物質とも呼ばれ、気持ちを高揚させてやる気を促す効果があります。そして、このドーパミンは新しいワクワクに出会ったタイミングだけでなく、過去のワクワク体験を思い出すときにも活性化するとされています。(※6)
※6:毎日新聞 人生の筋トレ術「脳が若い人ほど過去をよく振り返る? ノスタルジアの効果」
また、シンガポール国立大学などの研究では、ノスタルジーによって「主観的幸福感=収入、学歴、健康状態といった客観的な条件とかかわりなく、自分が幸福だと感じる状態」が高まることも分かってきました。そのため、「ノスタルジー」を追求することは本能的にワクワクを求める行動の一種であり、自身を幸せにするための手軽な方法だともいえるのです。
ノスタルジー消費も一見無駄に見えるけれど、私たちが無意識的に幸せを求めてついついやってしまう「無駄」だったのかもしれません。それでは、また次回もお楽しみに。
著者紹介:植月ひかる
株式会社 博報堂 STP局
マーケティングプラナー/ヒット習慣メーカーズ
2017年 博報堂に入社。社会に新たな潮流をつくることを夢見て早8年。
最近は平成のアニメを観るなどして童心にかえっています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
サンリオに学ぶ「推し活」戦略 新規層をどんどん獲得できるワケ
サンリオが「推し活」に注力している。ピューロランドでは、推しの写真やアクリルスタンドを持った客が目立つ。サンリオに学ぶ「推し活」戦略とは……?
私たちはなぜ「黒い箱」に高級感を感じるのか “高見え”の正体に迫る
なんとなく、「黒い箱」って高級感を感じませんか? 世の中には“高見え”を意識した商品がたくさん存在します。この“高見え”とは一体何なのでしょうか?
クリエイターやプランナーに伝えたい いいアイデアには「寄り道」が必要なこれだけの理由
読者の皆さんは最近、寄り道していますか? 実は、寄り道はアイデアや企画を考える際に多くのメリットをもたらします。本記事では、寄り道の持つ可能性を考察してみましょう。
なぜ歯磨き粉はミント味? ヒット商品の誕生には「無駄」が必要なワケ
みなさん、最近無駄話をしていますか? 博報堂ヒット習慣メーカーズでは、これらの「無駄」こそ今の社会に必要なものだと考えています。本記事では、無駄こそが真の豊かさを求める上で最強の武器になると思う理由についてお話しします。
丸亀シェイクうどんの大ヒット 背景にある「あえてひと手間」が持つ効果とは……?
世の中には、「あえてひと手間」加えることでヒットした商品がたくさんあります。例えば、丸亀の「シェイクうどん」の大ヒットでも、「あえてひと手間」が効果的に作用しています。
D2Cはオワコンなのか 多くのブランドが淘汰された背景に“闇深い”事情【マーケターがいま読むべきヒット記事3選】
個人情報保護やサードパーティCookie規制に加え、目まぐるしいスピードで移り変わるトレンド………。マーケティングはどんどん複雑化し、継続的な新規顧客の獲得や、ファン育成の難易度が増しています。今回は、マーケターが今抑えるべきトレンドを紹介した人気記事を、ITmedia ビジネスオンライン編集部が厳選してお届けします。
「広告費0」なのになぜ? 12年前発売のヘアミルクが爆売れ、オルビス社長に聞く戦略
12年前発売のヘアミルクが爆売れし、2023年のベストコスメに選ばれた。「広告費0」「リニューアルも一切なし」を貫いてきたのになぜ? オルビス社長に戦略を聞いた。
“勝ち手法”だった「インフルエンサーマーケ」 急激に失速した2つの要因
D2Cの“勝ち手法”だった「インフルエンサーマーケティング」が急激に失速した。「D2C」を取り巻く市場は厳しい中、企業は従来の「インフルエンサーマーケティング」の認識をアップデートする必要がある。
D2Cはオワコンなのか 多くのブランドが淘汰された背景に“闇深い”事情
D2Cビジネスは冬の時代を迎えている。なぜ多くのブランドが淘汰されたのか……。背景に3つの理由がある。
数学好きにはたまらない? サントリー特茶が広告に「計算問題」を仕込んだワケ
「みさえのインスタ」がリアルすぎる? 55万人のフォロワーを魅了した広告企画がすごい
「バカじゃないの?」とも言われた――4℃は「ブランド名を隠す」戦略で何を得たのか
SNS上で一部ネガティブなイメージが語られ、度々話題を集めているジュエリーブランド「4℃(ヨンドシー)」。9月にブランド名を隠した期間限定のジュエリーショップ「匿名宝飾店」をオープンし、話題に。瀧口社長が「匿名宝飾店」を振り返って感じた手応えは……?
