「大人のねるねるねるね」に「大人様ランチ」……なぜ大人はノスタルジーに魅せられるのか:令和の無駄学(1/2 ページ)
知育菓子は子どもにとっては、あれこれ入れたり混ぜたりする過程が料理のようで、大人のまね事をしたいという欲とともに、知的好奇心を満たすものになっています。一方で、大人はどのようなポイントで支持されているのでしょうか?
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連載:令和の無駄学〜僕らにはもっと無駄が必要だ〜
合理的で効率化が求められる社会。どんどん便利になる社会。何不自由なく生きられる社会。しかし、それと逆行するように人々の幸福度は下がっている。
もっと豊かで人間らしい暮らしを得るには、時間的な余白や、一見どうでもいいような機能、生活必需品ではないものの購入など、いうなれば「無駄」が必要なのである。無駄こそ心にゆとりをもたらし、無駄こそ周囲へのやさしさにつながる。真の豊かさを求める上での最強の武器である「無駄」について、社会を解剖していく。
世の中が加速度的に便利になる中で、効率は良くなったものの面白さが失われてしまった……。だからこそ、今の時代には「無駄」が必要なのである!
そんな考えのもと鼻息荒く始まった本コラム。連載第6回目の本記事では、誰もがついついやってしまう「ノスタルジー消費」について考えてみたいと思います。
「ノスタルジー消費」とは?
「ノスタルジー消費」とは、かつて体験した文化を懐かしむ気持ちから生まれる消費行動です。分かりやすいものでいえば、長年続くレトロブームもそれに当てはまる部分があるでしょう。また、そこまであからさまでなくとも、知らず知らずのうちに過去を懐かしんで行っている行動は数多く存在します。
例えば、筆者は最近、高校時代の友人と温泉旅行に行きました。修学旅行をともにしたメンバーでの旅行なので思い出話に花が咲くのはもちろんですが、それ以上に盛り上がったのはあるカードゲームでした。私たちの世代では誰もが体験したカードゲームなのですが、気付けば3時間以上熱中してしまい、その場で多くのメンバーが自分用にカードゲームをネットで買いなおすほどでした。
せっかく旅行に来ているのに、昔やったことがある、いつでもできるカードゲームに時間を費やすなんてもったいないと思う方もいるかもしれません。でも、当人の私たちはそんなことに気付く間もなく、ただただ楽しんでいたのです。
こんな風に、理屈ではなく懐かしさからハマってしまうことは意外とたくさんあります。そんな中でも今回取り上げたいのは、知育菓子(R)です(※)。知育菓子というと、小さな子どもが楽しむものというイメージも強いかもしれません。しかし、最近では大人用の知育菓子も発売されているほど、幅広い年代の方が買い求めるものになっています。
※知育菓子はクラシエフーズの登録商標
子どもにとっては、あれこれ入れたり混ぜたりする過程が料理のようで、大人のまね事をしたいという欲とともに、知的好奇心を満たすものになっています。一方で、大人はどのようなポイントで支持されているのでしょうか?
なぜ大人が「ねるねるねるね」にハマるのか
実際に最近発売された大人用の知育菓子を食べたという人へ著者が行ったインタビューで、知育菓子を買ったきっかけを聞いてみると「店頭で見かけて子どもの頃を思い出したから」「(見かけて)子どもに戻ったようでワクワクしたから」という声が多く挙がりました。
大人を対象にした調査では、知育菓子の『ねるねるねるね』を小学生までに食べたことのある人は8割(※1)に上り、ほとんどの人が同様にこうした原体験を持っていることが分かります。
※1:クラシエフーズ「大人のねるねるねるね」Web調査(2021年10月実施、対象:19〜34歳男女)
また、脳科学者の篠原菊紀さんによると、子ども時代のワクワクした感動体験は、強い記憶につながっていくといわれています(※2)。
※2:篠原菊紀(2010),『子供が勉強にハマる脳の作り方』,フォレスト出版
とはいえ、子ども時代のことをあまり覚えていないという方も多いと思います。では、残る記憶と残らない記憶の差は何なのでしょうか。日本理科教育学会の研究によると、子ども時代の体験の中でも「嗅覚」「触覚」「味覚」を伴う原体験は大人になっても残りやすいんだとか。(※3)
※3:日本理科教育学会「理科学習の基盤としての原体験の教育的意義」
知育菓子にあてはめて考えてみると、普段の料理ではあまり嗅いだことのないにおい(=嗅覚)や、初めて口にしたときのパチパチする食感(=触覚)、甘いのに酸っぱさもある不思議な味(=味覚)を全て備えています。こうした3つの主要五感をおさえていることに加えて、子どもの好奇心をくすぐる原体験になっているからこそ、私たちは大人になっても、知育菓子を見るとかつてのワクワクした感情が自然と思い出され、つい手を伸ばしてしまうのかもしれません。
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