なぜマツダは「売らない拠点」を作ったのか? その先にある“マツダらしさ”とは:高根英幸 「クルマのミライ」(4/5 ページ)
マツダが開設した「MAZDA TRANS AOYAMA」は、ブランドの世界観を周知するための施設だ。自動車メーカーがクルマを販売しない拠点を設ける試みは以前からあり、商品やブランド価値の発信に一役買っている。今後もブランド力の強化と発信が重要になりそうだ。
高級ブランドを体感できる施設も
近年ではメルセデス・ベンツやレクサスも、クルマを売らないショールームやブランドPRのための施設づくりに力を入れてきた印象がある。
「Mercedes me(メルセデスミー)」は、六本木と青山の中間あたりにあったメルセデス・ベンツとスマートのコンセプトストアで、カフェやレストランラウンジを主体とした、高級ブランドを思わせる施設であった。
同様の施設は羽田空港や大阪にも存在するが、こうしたコンセプトストアは日本独自の展開であることから、メルセデス・ベンツは日本のユーザーのブランド信仰の強さを利用する目的でこうした施設を展開していることが想像できる。
レクサスはディーラー自体が高級感を強調しており、レクサスオーナーは購入後も来店してはお茶を飲んでくつろぎ、愛車やショールーム内のクルマたちを眺めることで満足感を得る向きも多い。そんなレクサスブランド好きをさらに喜ばせるための施設が東京・日比谷の「LEXUS MEETS…」と、青山の「INTERSECT BY LEXUS - TOKYO」だ。
これらはカフェラウンジとショールームを組み合わせた施設で、INTERSECT BY LEXUS - TOKYOは、日本各地にあるグルメやデザイン、アート、テクノロジーなどを紹介することにより、レクサスが日本の優れたブランドであることを意識してもらう狙いがある。
INTERSECT BY LEXUS - TOKYOは高級ブティックのような外観で、1階はカフェとガレージのようなショールーム、2階はラウンジとショップ。2階へと上がる壁面には、クルマの部品が真っ白にされてちりばめられている(画像提供:トヨタ自動車)
日産は東京・銀座のソニービルにショールームを構え、長く情報発信を行ってきた。クルマ1台を展示するだけの限られたスペースながら、ソニービルという流行の発信基地での展示はそれなりに意味があったのだろう。しかし、横浜に本社を移転してからは、やや情報発信が足りない印象だ。
トヨタのレクサスのようにインフィニティを日本でも展開すれば、業績は変わったかと問われれば、それは難しい。インフィニティブランドの車種の多くは日本で日産ブランドで販売されており、大型SUVなど日本未発売のモデルを導入したとしてもそれほど収益に貢献したとは思えないからだ。
そして冒頭のマツダに関しては、これまではドライビングを楽しむイベントやアカデミックなプログラムなどを展開してきた。しかし、今回の施設では、クルマを含めたライフスタイル全体を提案することで、より上質なブランドイメージの周知を図っているのだろう。
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