無駄すぎる日本の「1on1」 上司が部下から引き出すべきは“本音”ではない:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
上司と部下の1on1ミーティングを実施する企業が増えています。「若手社員のために!」と経営層や人事が意気込むものの、現場からは戸惑いの声も……。なぜ、日本企業では1on1がうまく機能しないのでしょうか。
ゴールを見据えた1on1と、数字だけ見る1on1
米国で1on1が広がったのは、1980年代から90年代にシリコンバレーのIT企業で導入が進んだのがきっかけとされています。IT企業は従来の階層組織とは異なる「組織のフラット化」を目指しました。そこで「上司と部下の信頼関係構築」「従業員の成長と能力開発」「コミュニケーションの活性化」「従業員エンゲージメントの向上」を主な目的として、「従業員のパフォーマンス向上と組織の生産性向上、イノベーションの促進」をゴールに、1on1を取り入れました。
インテルの元CEOであるアンドリュー・S・グローブは、著書『High Output Management』(日経BP)の中で1on1の重要性を強調しています。Facebook(現Meta)のCEOマーク・ザッカーバーグが、元COOのシェリル・サンドバーグとの1on1ミーティングを重視していたことなどからも、1on1の有効性は広く知られています。
かたや日本はコピペ導入しただけ。大前提として、1on1ミーティングでは、上司であるマネジメント層へ、部下を適切に評価するスキルを教育することが必須です。1on1の効果を最大化するには、定性的および定量的な評価に関する知識が必要なので、そのスキルがないまま1on1を実施しても時間と労力を無駄にしてしまいます。単なる雑談や進捗報告の場にとどまってしまっては、本来の目的の達成は期待できません。
そもそも、日本企業の多くでは、管理職=マネジャーの役割自体が曖昧です。本来、マネジャーは定性と定量を使い分けて、部下がどこまで自己肯定でき、次の目標を決め、前向きな気持ちで挑めるか、といった部下のやる気を引き出すのが仕事です。
しかし、日本企業の管理職は上から降りてきた「数字」だけをみて、達成できただの、できていないだので部下を評価します。数字はあくまでも数字です。「人=部下」をみて、理解して、ときに背中を押し、ときに道なき道の案内役になるのが上司ではないでしょうか。
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