AIでは「お前がそこまで言うなら……」は引き出せない 昭和的“非論理”セールスの極意:「キレイごとナシ」のマネジメント論(3/4 ページ)
現場では、論理的とはいえないような不思議な付き合い方で契約を取ってくる営業がいるのだ。
「熱意」に負けてしまう人間心理
営業の熱意に負けてしまい、決断してしまう人がいる。以下の「自燃人」「可燃人」「不燃人」で分類すると、まさに「可燃人」だ。
- 自燃人:すぐ火がつくタイプ
- 可燃人:火をつけようとすればつくタイプ
- 不燃人:どんなに働きかけても火がつかないタイプ
一般的には大多数が可燃人だ。いくら働きかけても、そう簡単に火はつかない。理屈に合っていても、すぐには「その気」にならないのだ。意思決定するにも自分のペースがあるので、「相手から言われたからといって」自分の判断を変えることなんてしたくないのである(繰り返しになるが、理屈が通っていることが前提である。顧客にとって不要なものを、熱意だけで売ろうとしてはいけない)。
ある法人営業の事例を紹介しよう。
IT企業の営業が、製造業の企業に基幹システムの刷新を提案していた。顧客の反応はこうだった。
「導入する気はあるけど、他にも優先すべき課題がある」
「他社も検討してから決めたい」
これが典型的な「判断しかねる」状態である。可燃人である顧客は、そもそも理由もなく先送りする。決め手に欠けるとか、他に優先すべき課題があるからなどと“言い訳”をして決断しない。
これを「決断回避の法則」と呼ぶ。決断しないことを決断するということだ。
なぜ「決断回避」が起こるのか
人間には現状維持バイアスがある。変化を嫌う心理だ。とくに「可燃人」は顕著に出る。
「現行のシステムを変えるべきだとは思うが、今のままでも何とかなっているしなあ」 「他部署との調整も面倒だしなあ」
こんな思いが頭をよぎる。何か明確な理由があって決断していないわけではない。だから論理的な説明をしても響かないのだ。
そういう可燃人の顧客には、何度も接触し、押したり引いたりを繰り返す。決して「圧」をかけてはいけない。ソフトタッチで回数を重ねよう。
「先週もお伝えしましたが、競合他社は既に導入を始めています」
「今回は無理にとは言いません。ただ、御社の将来を考えると……」
このような働きかけを続ける。ソフトタッチで働きかければ、顧客も以下のようにソフトタッチで断われる。
「そんな風に焦らせないでよ」
「こっちも、いろいろと調整しなくちゃいけないんだから」
万が一、次のようにヘビータッチで言い返したら関係はかなり悪化するだろう。
「去年の12月には、そろそろ決めたいと仰っていましたよね?」
「何を調整することがあるんですか? もう半年以上たちますよ?」
今日のところは断られたっていいのだ。相手は自分のペースで判断したい可燃人だから、粘り強く、次のように働きかけよう。
「またデータが悪化しているようですね。そろそろシステム導入を本格的に検討されたほうがいいかもしれません」
「こちらの会社の成功事例をお持ちしました。ここまで成果が出ているようです……」
すると、ある日突然、
「せっかくだから、詳しい提案書を見せてもらおうか」
「そこまで言うなら、一度社内で検討してみるよ」
と言ってくれる。ようやく重い腰を上げてくれるのだ。営業からすると「ようやくか」と思うだろうが、人間なんてそんなものだ。だから営業には「粘り強さ」「執念」のようなものが大事なのである。
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