「人気ブランド制服のグッズ化」で従業員意識を改革 「福岡の老舗サウナ」に学ぶブランディング(1/2 ページ)
激化する“サウナ戦国時代”で、どのような施策を打っているのか。福岡で老舗サウナを経営する日創の安東伸章社長と今泉幸一総支配人に聞いた。
若い世代を中心にサウナブームが到来している。厚生労働省の衛生行政報告例を見ても、サウナ施設の数は、2022年から2023年にかけてスーパー銭湯やサウナ施設が含まれる「その他の公衆浴場の数」は132件増加した。一方「銭湯」と呼ばれる一般公衆浴場の数は153件減少しており、対照的な形だ。
サウナ施設の数が増加傾向にあるのに対し、「サウナー」と呼ばれる愛好者の数は実は減っている。日本サウナ総研の調査によると、「月に1回以上は利用する」と回答したサウナ利用者の数は、コロナ禍前は900万〜1000万人だった。その後コロナ禍で600〜800万人程度に減少したと分析していて、コロナ禍以降も数では横ばいが続いているという。Z世代と呼ばれる若者の間ではサウナはブームかもしれない。一方、絶対数では伸びていないのが現状なのだ。
これはつまり、サウナ施設側にとってレッドオーシャン化が進んでいることを意味している。近年多くの施設がリニューアルし、サウナ環境だけでなく滞在環境を改善させてきた。自前のグッズ製作・販売も盛んで、ブランディングと利用者のロイヤリティ向上に余念がない。
福岡市で40年近い歴史を持つグリーンランドグループもこうした施設の一つだ。激化する“サウナ戦国時代”で、どのような施策を打っているのか。グリーンランドグループを経営する日創の安東伸章社長と今泉幸一総支配人に聞いた。
安東伸章(あんどう・のぶあき)1995年に九州電力に入社。2000年から玄海原子力発電所の建物の保全、設計および工事管理を担当する。以降川内原子力発電所および日本原燃の再処理工場で経験を重ねる。2014年からは本店にて東日本大震災の影響で停止していた、原子力発電所の再稼働という、全電力の中でトップランナーとして九州電力が取り組んだプロジェクトの一員として業務に携った。2017年から集大成として玄海原子力発電所の勤務を希望し、特定重大事故等対処施設の現場を担当。2年後の2019年3月に九州電力を退社し、同年4月に日創に入社。その後コロナ禍の2020年9月に代表取締役に就任した。北九州市出身
今泉幸一(いまいずみ・こういち)1999年大学卒業後、日創の前身の会社に新卒採用で入社。1年目は天神店で研修、2000年4月に博多駅前エスパ店に異動し、2001年にフロントチーフ、2005年にはマネージャーに昇格。2009年には体育学部卒ということもあり、スポーツクラブINPEXに異動。主に企画や入会の営業、会費管理を担当。2015年に現在の中洲店に異動し、副支配人として勤務。2019年に同店支配人、2022年に総支配人となり現在に至る(天神店は2007年、エスパ店は2011年、INPEXは2015年に閉店)
制服のグッズ販売でブランドを訴求
――グリーンランドグループでは2024年1月に制服を刷新しました。新しい制服はどのような経緯で導入したのでしょうか。
安東: 新しい制服は、インド出身のデザイナーによる日本のブランド「ベドラム」が制作しています。ベースとなっているのは、実はインドで身分の低いとされる人たちの制服で、「そういう人たちに光を当てて輝かせたい」という理念によって、ブランド化したものだそうです。
プランナーの増田ダイスケさんが買い物に行った際に、偶然制服を見せてもらい、コンセプトを聞いた際に、すぐに私に電話がありました。そのコンセプトがリニューアルの意図にぴったりだと共感したことから制服に採用しました。 東京の蔵前を拠点にしている方で、日本とインドの友好も掲げて活動しています。ブランドとしても非常に志が高く、熱い思いを持った方です。
――スタッフだけでなく、制服を来館者に販売もしていますね。
安東: 当店では支配人クラスにはエンジ色、一般従業員にはカーキ色を採用して区別し、さらに着用する場面に応じてTシャツも導入しています。マッサージトレーナーや浴場スタッフは動きやすいTシャツ姿、レストランも同様です。新しい制服によって統一感を出せたことで、場全体が引き締まりました。
一般販売については、最初は売れるのか不安もありましたが、意外と購入される方が多かったのです。価格は数千円と、決して安くありませんが、それはブランドとしての価値があるからです。実はわれわれにとってもほとんど利益は出ない水準なのですが、ベドラムとの協働を通じて「ここでしか買えない価値」を利用者に提供できていることが大切だと思っています。
制服ひとつとっても、従業員に誇りを持たせるだけでなく、顧客との接点を新しく生み出す「会話のきっかけ」にもなっているのが面白いところです。
スタッフの誇りが顧客体験を底上げする
――制服やグッズに取り組むことで、従業員の気持ちも変わり、ブランディングにもつながっているんですね。
安東: そうですね。制服づくりやキャラクター導入、グッズ展開などは「グリーンランドというブランドをどう確立するか」という観点から始めました。その一環としてキャラクター「みどり」をデザインし、館内着やキーホルダーなどのグッズに展開しました。来館記念として手に取ってもらい、また次も来たいと思っていただけるきっかけになればと考えています。
従業員の意識も大きく変わりました。従来はルーティンワークの繰り返しでマンネリ化もありましたが、「次は何をやろうか」と利用者を喜ばせるための発想が出るようになってきました。売り上げが上がるのも「何かを仕掛けたことで成果につながった」と実感できれば、その後のやりがいになるんです。
――最近では、オリジナルのサウナグッズも展開しています。
安東: はい。特に注力しているのが「ボタン付きタオル」です。これは通常のタオルにスナップボタンを付けて工夫したもので、サウナハットの代用品として使えます。サウナハットは値段も高く持ち歩きも煩わしいですが、タオルなら体を拭くのと兼用できます。かぶり方も3種類ほど提案していて、ボタンの色でアレンジが可能です。
――確かに、利用者目線では非常に便利ですね。
安東: サウナ利用者はみんな頭にタオルを巻きますよね。それを「簡単にハット化しよう」という発想で作りました。実際、YouTubeチャンネルで紹介されたこともあり、その後女性客から「タオルだけでも購入できますか」と問い合わせをいただきました。価格も2300円程度で、サウナハットに比べると非常に手頃です。
爆発的に売れる必要はありません。ただ、利用者がここにしかない体験やここでしか買えない価値を感じるなら、それがブランディングにつながります。私にとってはそれが何より大切なのです。
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