「人気ブランド制服のグッズ化」で従業員意識を改革 「福岡の老舗サウナ」に学ぶブランディング(2/2 ページ)
激化する“サウナ戦国時代”で、どのような施策を打っているのか。福岡で老舗サウナを経営する日創の安東伸章社長と今泉幸一総支配人に聞いた。
採用の呼び水となるブランド施策
――やはり制服の刷新やグッズ展開は「トータルのブランディング」という位置付けなんですね。
安東: そうです。制服やグッズは単に販売するものではなく、グリーンランドというブランド価値を高めるためのものです。そして、その価値は顧客だけでなく従業員自身にも届いて欲しいです。従業員が楽しそうに、誇りを持って働いていなければ、利用者も楽しくないですからね。実際に制服やキャラクター、タオルグッズを導入したことで社内の一体感も強くなり、スタッフのモチベーションは着実に上がっています。
――従業員の採用や世代交代についてはいかがですか。
安東: 確かに課題です。スタッフは年配者が多く、若い人の採用は難しい面があります。それでも制服やブランド施策が「ここで働いてみたい」というきっかけになり、少しずつ若い層も増えてきました。
ただ若いスタッフが続かないケースもあり、受け入れる側の接し方も重要だと感じています。中洲店で約40人、小倉店で約30人、全体では70〜80人の体制ですので、一人一人が元気に働ける環境を整えるのが経営者の大事な責務だと思っています。
今泉: 若い従業員は確かに増えましたが、定着には私たちのフォロー体制や、世代に合わせたコミュニケーションの工夫が必要です。現場では、まず関わりを増やすための施策も取り入れ、馴染みやすい空気づくりを心がけています。
――サウナブームで若い世代の利用者も増えているといいます。そうした変化に従業員は順応できているのでしょうか。
安東: 最初は戸惑いが大きかったと思います。ただ私は「トライアンドエラーでいいじゃないか」と伝えました。やってみてダメなら元に戻せばいい。もちろん大きな変更は慎重になりますが、小さな改善は柔軟にやっていこうと。そのために「責任は私が負う」と言い切ったことで、スタッフも徐々に前向きに変革に関わってくれるようになりました。
今泉: 実際に投資するのは会社側なので、現場にいる私たちは投資に見合う売り上げの作り方を考え、スタッフにも意図を丁寧に共有して理解を得るようにしています。
安東: 同時に、スタッフの意識改革の意味も込めて制服を導入しました。これは単なる服装管理ではなく、ブランドの一貫性を示し、現場で働くスタッフの誇りにつながる仕掛けとして意図したものです。
ハード・ソフト整備の次は企業価値の伸長
――安東社長は九州電力に23年間務め、サウナ経営者に転身した経歴を持ちます。今でもその経験は生きていますか。
安東: そうですね。インフラとして電力は「なくてはならない」ものでしたし、今の仕事であるサウナや施設運営も、人にとって「なくてはならない」存在になってほしいと思っています。土俵は違えども、やっていることの本質は変わらない。人を支え、人を楽しませ、満足度を高め、結果的に企業価値を上げるという点は一緒なんです。
――九州電力での経験が、今のブランディングや組織づくりに生きているわけですね。
安東: はい。私は何か新しい取り組みを進める際、必ずデータをまとめ、資料化して説明するようにしています。それは九電時代に培った習慣なんです。大きなプロジェクトに関わるときは数字と資料で納得させなければ動かない。だから、今も社内や銀行に説明する際には、きちんと紙に落として全員に分かりやすく伝えるようにしています。
――従業員の浸透もそこがポイントなのでしょうか。
安東: 改革はトップダウンで押しつけても浸透しません。現場のスタッフが「なぜやるのか」を理解してくれることが大事です。だから私はできるだけ整理した情報を共有し、共感してもらえるよう努めています。結果としてスタッフも「やってみよう」と動いてくれる。今のグリーンランドは、単なるサウナ施設の運営企業という視点だけでなく、ライフスタイル創造企業として 、まさにみんなで作り上げている会社だと感じています。
やっとハード面もソフト面も一定の形になってきたので、これからどう企業価値を高めていくかが勝負です。まだまだ挑戦は続きます。
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