【現地レポ】なぜドイツの地方都市が「AIベンチャーの聖地」に? 元食肉処理場が起業拠点、その熱気の実態(2/3 ページ)
ドイツ南西部の地方都市が、首都ベルリンを凌ぐ勢いでBtoB・ディープテックの巨大ベンチャー拠点へと変貌している。大学の知財、地場産業の課題、そして強固な民間資本が結びつき、単なる出資にとどまらない「現場実装型エコシステム」を構築。東京一極集中や「資金提供のみ」に陥りがちな日本のオープンイノベーションと地方創生に対し、強力な勝ち筋と教訓を示している。
工科大学を中核とした欧州屈指のディープテック創出拠点
マンハイムから鉄道で約20分。カールスルーエは、先進的な都市交通システムで世界的に知られるほか、ドイツ屈指のIT・テック系イノベーション都市としても発展を遂げている。歴史的建造物と最先端テクノロジーが同居するこの街には、優秀な研究者や起業家を引きつける都市環境と学術基盤がある。
中核となるカールスルーエ工科大学(KIT)は、ドイツ国内でトップクラスの大学発ベンチャー・ITエコシステムを有する。特に、科学的・技術的な研究成果を実際の産業や社会に実装するディープテックの創出に力を入れている。学生らが基礎研究から資金を調達し、起業して上場するところまでを総括支援する「スタートアップセンター」を備えている。
周辺はドイツの応用人工知能(Applied AI)のデジタル拠点にも指定されており、ディープテック企業が成長しやすい環境を整えた。また、元兵器工場を利用した研究・展示施設「ZKM」(カールスルーエ・アート・アンド・メディア・センター)は、先端テクノロジーとアートが融合する実証の場として、AIやVR領域のベンチャーや研究者が集まる場となっている。 一般にも開放しており、世界最高峰のメディアアート展示施設としての側面も持つ。
市内の「Alter Schlachthof Karlsruhe」(アルター・シュラハトホフ・カールスルーエ)は、2006年まで食肉処理場だった広大な敷地を再生したベンチャー拠点だ。
特に約70個の海上輸送用コンテナが積み重なる「PERFEKT FUTUR」は、1927〜1928年築の歴史あるホール内にあり、若手起業家やクリエイターらが活動する。創業3年未満の企業・個人が最大5年まで入居可能だ。
敷地内のカフェやレストランは、サステナビリティを体現するグリーン・ベンチャーの実践の場であり、起業家や投資家にとっての交流ハブとなっている。地元民や旅行客も普段から気軽に利用している場所だ。
巨大民間財団の投資で創られる欧州AI拠点「ハイルブロン」
カールスルーエから、さらに鉄道で1時間の街ハイルブロンのベンチャー支援は、他の2都市と事情がやや異なる。
一見すると穏やかな地方都市であり、ワインの名所としても知られるハイルブロンだが、その裏では巨大民間資本が主導する欧州有数のAIイノベーション拠点が急速に形成されている。欧州各国でスーパーマーケットをチェーン展開するLidl創業ゆかりの地であることから、ディーター・シュワルツ財団(Lidl創業者の財団)が強力に支援していることが大きい。
この一大プロジェクトが、欧州最大級のAI研究都市「IPAI」(Innovation Park Artificial Intelligence)の建設だ。建築家集団「MVRDV」が手掛ける巨大な円形AIキャンパスに、世界各国から5000人以上ものAI専門家やベンチャーが集結。「人類のAIグローバル拠点」の構築を目指す。
また、ミュンヘン工科大学(TUM)のハイルブロンキャンパスや、カールスルーエ工科大学などが主導するロボティクスやサイバーセキュリティ分野のAI応用を推進する大学院センターなど、産学連携と先端研究が盛んだ。ハイルブロンは、ドイツ連邦政府が起業を支援する「NXTGN」10拠点の1つにも選ばれている。
ディーター・シュワルツ財団が設立・運営する大規模な複合キャンパス「Bildungscampus」(ビルドゥングスカンプス)など、産学官の超高度連携で未来を見据え、グローバル企業が集まる「欧州のシリコンバレー」構想も視野に入れる。
さらに、欧州連合(EU)の欧州委員会による「2027欧州グリーン首都」にも選出され、ベンチャー都市として急速に発展する側面を併せ持つ。
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